B5版

判決、ふたつの希望のB5版のレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
3.4
暴言を吐いたら、殴られた。
侮辱されたから、仕返しした。

人種の異なる他愛無い男達の喧嘩は裁判に発展。
やがては磁場のようにあらゆる人物や集団を引き寄せてしまい、遂には政治的なトピックへと変貌する。
最終的には混迷した世相を揺るがす国の一大事となり、渦中の二人は…

民族の分断に関する作品、といえばセンシティブで敬遠する話題に聞こえてしまうが、この騒動の発端は諍いというより意地の張り合い、飲み屋で起こる酔っ払いの絡み合いに似たものであり、誰かが一喝したらチャラになるくらいくだらない。
そんな調子で始まったのだから、お互い負担と得のバランスを考えて多少の清濁あわせ飲もうよ、というのが最良の選択なはずなのにそうはいかない囚人のジレンマ。
両者が公的システムを導入してしまったことで、そこには明確な勝ち負けの必要性が発生してしまった。
それに係る金銭もあわせて。

序盤はくだらない意地の張り合いに笑っていられたのだけれど、お互いの過去の弱みを掘り起こし貶め合う舌戦の戦いに移ってからは物語は徐々に2人の重苦しい過去の輪郭をあらわにしていく。
相手の傷を広げる一方で、自分の古傷を公衆に開示される苦痛。個人的な諍いは、双方を市中引き回しの如く、心身共々をめったうちにした。

紛争や戦争のあとはきっと誰もが、それぞれ比較できない傷跡を持つのだろう。
それを数値に置き換えてどっちがより被害者で傷ついてるかなんて測定は不可能だ。
人生における最大のトラウマをカードバトルのように、被害者を主張するための切り札としてだけのために公開する痛みと勝ち負けのプライド、
どちらが大事かは天秤にかけるまでもないのに、それでも感情に振り切れてしまう怒りものの厄介さと度し難さを思い知る。

喧嘩から民族の代理戦争、果ては親子喧嘩と誰も彼もがこの悲惨な騒動に引き摺り込まれて、もはやこの不幸をとりなす術はどこにもないと思われたが、ラストは案外居心地よく収まる展開だった。

国、民族、人種カテゴリーは己のアイデンティティの要になる。そして時にそれは他者からの攻撃要素とも見なされる。
しかし一人と一人として接する数分の会話、そんな簡単なものが相手のカテゴリ抜きに和解の端緒を開くこともあるのだ。
汝が隣人を汝自身の如く愛するための鍵。
それは難しいようで簡単なところにあると信じたい。
国内外に転がる人種問題に対してどうしても頭がこんがらがりそうな時に思い出したい、シンプルな視点に立ち返る気にさせる作品である。
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