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シッコのNMのレビュー・感想・評価

シッコ(2007年製作の映画)
4.0
医療保険制度はじめ社会補償とはなにか。アメリカではどんな悲劇が続いているのか。
他の先進国ではどうなのか。
では日本ではどうか。

国民保険のないアメリカ。
怪我や病気をしたときでも、高額費用が払えなければ治療は受けられない。

民間の保険会社はあるがまず入るのが大変。
運良く入れてもいざ病気になると支払いは渋られる。拒否された結果命を落とすこともある。
何度も病気をすれば中流以上の家庭であっても破産することもある。

保険会社の医師は、患者の微々たる申告不備を掘り起こしたり治療の必要性自体を否定して、保険の支払いを断れれば給料が上がる仕組み。良心の残る医師は罪悪感にさいなまれる。時間を経て自分の判断がどれだけの人を苦しめたのか気づき後悔が襲ってくる。

病院で働く医師も、治療費の払えない患者にどの治療を受けるか取捨選択させたり、治療を断らなければならない。
病院によっては入院費の支払いが滞った患者をある日突然道に捨てることすら起こる。

自分自身の場合もあれば、大事な家族が日に日に健康を失っていっても何もできず、そのまま失って無力さに打ちのめされる人も。
治療法があるのに。明らかに必要で効果のある治療なのに。
病院は薦めるても保険が下りない。

一方カナダやイギリスやフランスでは医療費はかからない。物価は高いがそれも含めて国民に支持されている。自宅や車、旅行など充分に人生を謳歌できる。
治療費だけでなく通院の交通費が払い戻されたり、治療後は医師の診断書で有給を数ヶ月取ることも普通。パートでもアルバイトでも。
法律で補償されていてこれが普通だと思っていて疑問など持たない。
出産費用も無料だし、子育て中も家事補助など手厚いサービスが受けられる。
それでももし困っている人がいれば当然のように助け合う。
「底辺に生きる者への対し方でどんな社会か知れる」。

アメリカの平均寿命は他国より短く、医療ランキングは下位、富裕層でさえこれらヨーロッパ諸国の貧困層より不健康。

例えば9・11の後グラウンド・ゼロで働き呼吸器疾患を負った消防士やボランティアたちにも補償はなく、働くことができない状態に陥っていた。
正義感で他人のために奉仕したのに、自分自身が病気を負い長年治療できない日々を送るあいだの苦悩は計り知れない。

アメリカで無料で医療が受けられるのは刑務所の中ぐらい。

キューバでも世界有数の医療環境がある。
恐ろしいカストロのイメージはまだ強く残るが、医療環境はアメリカよりも余程進んでいるようだ。アメリカでは高額な薬品が、ここでは誰でも格安で入手できる。
費用が用意できず何十年も苦しんできたアメリカの患者たちは、キューバに来て突如救われた。みんな信じられないと言わんばかりの顔をしている。
費用も保険証もなくてもここでは名前と生年月日を告げるだけで最高の医療を提供してくれた。
検査すら受けられずにいた疾病が何か判明し、服用していた薬も減らすことができ、今後の生活指導も受けられた。
何より、病院や同業者からのあたたかい労いと歓迎を受けた。
アメリカの患者たちは、費用自体の問題のみならずきっと病院や社会に何度も否定され打ちのめされてきたダメージも蓄積していることだろう。

日本は医療費を3割は支払う必要がある。高額になれば払い戻しもあるが、一旦建て替える必要はある。
皆保険制度はあるがそこから漏れている人は少なくない。様々な事情で保険証がないから病院に行けないという状況の人は案外いるはず。
また保険適用外の治療を受けることになれば、保険適用治療も含めて全額自費でまかなう必要がある。
限界集落などの僻地では病院が不足している場合も多い。
病院勤務の医師たちは長時間労働を強いられ寝ずに手術を執刀することもざら。
出産や子育てで施設不足が起こってしばらく経つ。介護保険も年金もこのままでは立ち行かないだろう。
日本も医療はじめ社会補償全般について早急に改革が必要な状態だ。

それと改めて、病気になっただけでも大変なのに、保険会社と戦い病院と戦い、仕事や自信を喪失し、家族に迷惑をかけるという肩身の狭い思いをしたりしてかなり辛そう。ますます病気が悪化しておかしくない。
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