TnT

鉄道員のTnTのレビュー・感想・評価

鉄道員(1956年製作の映画)
3.7
 時も場所も超えていまの日本にも響く家族の物語。以前見たピエトロ・ジェルミの「誘惑されて、捨てられて・・・」もそうだが、家族間の普遍的なテーマが一貫して描かれており、今作品は非常にハートフルであった。「誘惑されて、捨てられて・・・」ぐらいになると毒っ気と皮肉がふんだんに盛り込まれるようになるのは、ハッピーエンドばかりでない現実のシビアさの裏付けだろう。今作品にはまだ希望も愛もある。
(ちなみに「誘惑されて、捨てられて・・・」は今作品のジュリアの延長といえるだろう)

 少年が狂言回しとして自分の一家の物語を語って行く。無垢な笑顔と純粋な目、無邪気な疑問が逐一胸にくる。「誰にも言わないで」と言われ、ひとりでにいろんな秘密を背負ってしまう彼の姿。彼が大人になったらどうなるのだろうか。同じくネオリアリズモの映画「自転車泥棒」も子供からの視点があってこであった。ネオリアリズモとは子供のような純粋な眼差しで現実を見るということだったのかもしれない。

 みんなダメなところがあれば、さまざまな問題を抱えている。一見どうしようもなく見えるが、彼らは常に寛容で明るく振る舞う。そうして数々の困難を乗り越えた。クリスマスに始まり、再びクリスマスを迎えることができたことが、困難を乗り越えた証だろう。「マリア・ニコラ」を再び口ずさむときの明るさは以前と変わりないのだ。リベラーニおじさんが優しすぎる・・・。

 電車の猛スピードの映像の緊張感。それは、それを運転する父の姿とも重なる。父がいるところ全てピリついている。良くも悪くも昭和臭い親父である。日本人はこの父親像により共感するのではないだろうか。

 背後に潜む社会。これは家族の問題ではなく社会の問題でもある。長時間労働、低賃金、ストライキ、戦後の長引く傷跡。敗戦国であるイタリアの抱える問題は日本とも重なる。いまでもこの問題を解決できてないという悲劇が現実にまだある。

 人物を単体で正面からとらえるカットがちょくちょくあり、なんか印象に残る。またラストの父親のカットの、カメラの背後への回り込みは絶妙である。
 
 非常に重くのしかかるものがあったし、現実世界と重なって絶望的でもあったが、お互いに寛容に生きて許し合えたらどんなにいいだろうと希望を抱かせる映画だった。

あと全然知らなかったが、あの味のある親父さんは監督自身だったという。
TnT

TnT