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黒の試走車(テストカー)のRのレビュー・感想・評価

黒の試走車(テストカー)(1962年製作の映画)
4.5
増村保造のスパイ物かなり好きかもしれません。本作はスパイと言っても産業スパイ。タイガー自動車会社が新たに開発したパイオニアという名のスポーツカーが、試走中に事故を起こし炎上。それを新聞にすっぱ抜かれるのだが、テスト走行自体してるのを知っていたのは幹部たちのみ。おかしいぞ。幹部たちの中にスパイがいるに違いない。あぶり出さねば。だが、社長の身内が多いので追求するの困難。なので、逆にライバルのヤマト自動車にタイガー社のスパイを送って、こっちのニセ情報を提供して騙そうとしたり、相手側の新型車の情報をゲットしたりしようとする。ってな感じで、二社のスパイ合戦を展開しながら、いったい自社幹部の誰がスパイなのか?というミステリーを同時に進行させる。まず、パッと見ておっ、好み!って思うのが、かなりどぎつい白黒のコントラスト! ダークな画面の中に高度経済成長期のギラギラした男たちの顔がくっきり刻印されてて、その顔、顔、顔がすごいインパクト! 中でも主人公の朝比奈を演じる田宮二郎のイケメンぷりが印象的で、横顔や斜め上からの角度が惚れ惚れするかっこよさ。鼻の形が良い。スパイ活動のためなら自分の彼女に色仕掛けまでさせてしまえる男なのだが、筋肉質でキレイな上半身裸を見ると、まぁこりゃ惚れるよね、昭和とは、惚れた男に女がどこまでも弱かった時代なんだろうな、と思った。めっちゃ性格キツそうで無愛想な叶順子の不貞腐れた表情も素晴らしい! 部長の小野田を演じる高松秀郎がこれまたものすごい眉と顔面力! 濃さがすごい。エグい。この人自身が企画した新車なので、そのセールスのためならどんなことだってやってやるぞ、っていう勢いがすごいな、とエゲツなさも含めてアグレッシブさに感動。会社=人生の場、っていう感覚が、令和の現代には想像できない強度で存在してて、いま見ると、良し悪しは別にして、純粋にすごいな、と。この勢いが日本以外の国ではいまでも普通にあるって考えると、そりゃ日本もぐんぐん抜かれていくわな。とか今だからこそいろいろ考えさせられる面も多い。増村作品にしては元気にカメラが動き回ってるのも喜ばしいし、全体的に印象的なシーンが多く、読唇術の先生がビデオ見ながら解読していくとことか、叶順子がスパイ後に朝比奈のうちに報告に行くとこ、枕に口紅とか、素晴らしいです。そして、後ろめたさという大変に人間臭い感情がキーになってるのもドラマとして面白い。それがピークを迎えるクライマックスは……キャスティングの派手さ的に若干ネタバレしてもーてるよな、とか、最後の最後までもうちょいとスリリングだったらな、とか、まぁあるっちゃあるが、日本人的な倫理感のよい側面をさらっと謳った、ステキなエンディングだと思いました。3部作らしいので残りも楽しみでございます。ちなみに増村作品これで8本目でした! どれも面白い!
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