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復讐者に憐れみをのHKのレビュー・感想・評価

復讐者に憐れみを(2002年製作の映画)
5.0
「オールド・ボーイ」「親切なクムジャさん」などのパク・チャヌク監督による復讐三部作の第一弾。キャストはソン・ガンホ、シン・ハギュン、ペドゥナなどなど

重病に罹った姉の手術費をカモられてしまった貧困階級の聾唖の青年が、同じ聾唖学校の女生徒と組んで自分が勤める会社の社長の娘を穏便に誘拐することによって何とか手術費を手に入れようとする。しかし、事態はとんでもない方向に行ってしまうことに…

パク・チャヌク監督作は「オールドボーイ」ぐらいしか鑑賞していなかったのだが、個人的にはここまでの映画的な演出をとることができるパク・チャヌクさんの素晴らしい技巧に魅了されました。素晴らしい復讐劇でした。

復讐劇はよくよく被害者側や復讐する側を正義側にして善悪二元論でやり切ってしまうというような時代劇などでもよく見られる紋切り型のやり方に終始してしまうことが多い。

この映画は、そのような善悪二元論で片づけるだけでなく、復讐する側、される側双方にしっかりと落ち度をつけて、ともに哀れな存在として扱っているというのが何とも言えない終盤のむなしさを漂わせる。

また、刑事ドラマでよくあるような「復讐は空しいだけ」という形で説得するような人物も配置していない。やっぱりああいう存在って物語構成上邪魔なのだなと再認識させられますね。

この映画のスゴイ所は、復讐劇というどう考えても情動に訴えるような演出にしなくてはいけないジャンルにおいて、ここまで抑制の効いたドライな描写に終始しているという見事すぎる展開でした。

最早、北野武級にドライな演出が凄まじい。それでいながら、武ほどにドライに落としきるのではなく、程よく情念も垣間見れるソン・ガンホの演技も素晴らしかったですね。

ワンショットワンショットがフィックスで撮られているのが多く、テンポの速いカッティングなどはしていないながら、その一つ一つにしっかりとした映像情報をふんだんに入れてどのカットも芸術的に昇華させているのも素晴らしい。そして説明台詞を極端に省いているのも素晴らしい。

個人的には誘拐された少女がとんでもない事態になってしまうのですが、その彼女の最後の顛末の部分を「ここまで描くか!」という所まで踏み込みながら、そこはかとなくドライに描く演出が素晴らしかったです。

激しい動きや、グロテスクなショットがあるわけでもないのに、ここまで見るに耐えないほどの光景が思い浮かべられるその情念を、抑制演出で絞り出すこの手腕よ!パク・チャヌクさん大好きになりました。ここまですごい演出できるなんてすばらしい。

これでいて、オールドボーイではもうちょっとエモーショナルな演出が目立っていて、それはそれでよかったのですが、今作と比べると、もうこっちのほうが断然大好きというか、見せない演出が好きな自分としては大好物ともいえる作品でした。

最後の終わり方も、復讐の連鎖と言いますか、因果応報と言いますか、やはりどこかでこれは終わりにしないといけないというのがよくわかる結末だったと思いますね。やっぱり復讐劇は色んな意味で最高ですね。見れて良かったと思います。パク・チャヌク作品もっと見てえ。
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