mimitakoyaki

復讐者に憐れみをのmimitakoyakiのレビュー・感想・評価

復讐者に憐れみを(2002年製作の映画)
4.5
最近韓国映画を見てなかったのですが、これぞ韓国映画!という胸糞悪さが最高で、わたくしの体内で枯渇しておりました韓国映画をフルチャージできとても満足です。

貧しくて障害を持つ姉思いの心優しい青年が、病気の姉を助けたかっただけなのに、これがとんでもない悲劇を巻き起こし、おぞましい負の連鎖になっていくという話で、これがほんとに救いがないし、容赦ない、エゲツナイのです。

主人公の青年リュは聴覚障害者で、唯一の家族である姉が働いて美大に通わせてもらってましたが、姉が重い腎臓病で働く事ができなくなり、しかも腎臓移植でないと助からないため、大学をやめ工場で重労働をして姉の治療費を貯めている善良な青年です。

貧しさゆえに必要な医療が受けられず、学校にも行けず、生活もやっとというリュはまさしく社会の底辺で喘ぎながら生きる存在です。
こうした社会から置き去りにされ追い込まれていくという韓国の社会的背景を描いているというのが、ただの胸糞映画になってないところだと思うんですね。

一方で、リュの彼女は極左思想を持つ過激派で、金持ちを憎み革命を目指しているという極端な女の子(ペドゥナまじ可愛い)。
金持ちの娘を誘拐して身代金をせしめ、そのお金で姉を助けられるし、資本家から金も巻き上げられるから世のためにもなると唆した事から悲劇のタネになっていったり、資本家と労働者の闘争という構図が悲劇の最後にも活かされていて、いろいろ行き届いていて造りの巧さを感じました。

コーエン兄弟の作品でも、些細な事がどんどんと雪だるま式に取り返しのつかない悲劇に膨張して破滅するというのがよく描かれてますけど、この作品もそういう不条理がモリモリで、そしてまた韓国映画なのものですから、痛々しく生々しいギョッとする描写も多々あり、何も悪くない人が犠牲になるやるせなさや、障害や貧困といった本人にはどうしようもない社会的な要因が悲劇を起こしているのも辛いんですよね。
ほんとにこの世の不条理なんです。

だから、リュにも同情するし、リュに娘を誘拐された父親のドンジンにも同情するし、彼らは被害者でもあり加害者でもあるという複雑さが胸をざわつかせるのです。

まあ残酷な感じで人が次々に死にますしね、描写もなかなかにエグいですし、誰も救われない重くて陰惨な話なのに、映像の美しさや構図や間の取り方やセリフなどが、絶妙に抜けててシュールな面白さがあるんですよね。

臓器ブローカーのアジトである廃墟のビルに上がっていく時の逆光を活かしたシルエットなんて、ほんとに絵画的で印象的だったし、川のシーンでも、耳の聞こえないリュと誘拐された少女と脳性麻痺の男が別々に同時に映るシーンも不穏すぎるし、ブローカーの最後の格好のマヌケさとか、手話しながらのセックスとか、エレベーターで手を繋ぐのとか、水中の少女の顔とか、ぼのぼのとか、部屋と服の色とか、計算され尽くした色合いや構図、撮り方などなど、とにかくすごいなと、おもしろいなと、さすがだなと感心するばかりでした。

そして、やはり俳優陣も素晴らしいんです。
リュを演じたシン・ハギュンはこの作品で初めて知りましたが、心優しい繊細な青年が復讐の鬼と化す振り幅が良いし、聾唖者なのでセリフが全くない分、目や表情で語るのがうまくて、緑の髪もあいまってインパクトがありました。

あともちろんペ・ドゥナですよ。
過激派でありながら、あっけらかんとしてやっぱり最高にキュートなんですよ。
タバコの吸い方とかキャミ姿とかヌードも可愛すぎる。
ほんとに魅力的でした。

そして我らがソン・ガンホ。
この人のもつ雰囲気がほんとに味があるし、イケメンではないけど背の高さと脚の長さでキマるんですよね。
娘を奪われての慟哭、そこからジリジリとリュを追い詰めていく狂気じみた執念、耳の舐め方などなど素晴らしかったです。

チョン・ジェヨンもチョイ役で出てたりして、そんなサプライズ感も嬉しかったです。

パク・チャヌクの作品は「お嬢さん」と「オールドボーイ」しか見てないので、いろいろ見てみたくなりました。

100
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