マヒロ

蛇の道のマヒロのレビュー・感想・評価

蛇の道(1998年製作の映画)
4.0
自身の娘を誘拐され暴行を加えられた上に殺されてしまった宮下(香川照之)は、謎の男・新島(哀川翔)の協力の元その真犯人を探していたが、なかなかその尻尾を掴むことが出来ず……というお話。

『CURE』と同時期に作られた作品群の一つで、ずっと観たかったんだけどなかなか鑑賞の機会がない…という中リマスター版DVDが出たので思い切って購入した。
黒沢監督のキャリアでいうと、続編の『蜘蛛の瞳』と合わせて最後のビデオ用作品になるようで、だからかは分からないが劇場用作品である『CURE』と比べてもかなり好き勝手やってる感じがある。
起こっていることはかなりおぞましいはずが、演出や展開がコメディ一歩手前なところがあり思わず笑いそうになってしまう一方で、何の感傷もなく訪れる死や薄汚い廃墟のロケーションに生理的嫌悪感を及ぼされるアンビバレントさにクラクラさせられる。

塾の講師をやっている新島はどうやら数学担当のようで、黒板につらつらと数式を書いているが、何の意味があるのか全く分からない記号の羅列にしか見えない謎の式で、それを必死に書き取る生徒たちと、最もらしいことを言って式を書き直したりしている新島の様子はどこか滑稽でもあるんだけど、こちらの理解の及ばないことをずっとやっている様子はかなり不気味でもある。
映画を観ていてつくづく思うのが笑いと恐怖は紙一重というところで、笑いの基本って常識を破壊する不条理にあるので、雰囲気次第ではその不条理が気持ち悪いものになりかねないんだけど、黒沢清と脚本の高橋洋は常にそこら辺の瀬戸際を行こうとしている人なんだなと今作を見て改めて思った。

廃墟に積み重ねられたブラウン管TVが一斉に点いてぼうっと光が浮かび上がるシーンや、前述の塾の生徒である女の子が路地裏に異様な佇まいで立っているシーンなど、脳裏にこびりつくようなセンスのある画造りが冴え渡っていて、既に非凡さを感じられる。
ブラウン管に加えてビデオテープが狂気を媒介するという展開は、それこそ同じく高橋洋が脚本の『リング』が連想できて、Jホラーというジャンルの誕生を予感させられる。
変な映画であることは間違いないが、なんか厭な映画を作ってやろうという明確なビジョンがあり、それが上手いこと実っている秀作だと思った。


(2021.135)
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