マヒロ

野火のマヒロのレビュー・感想・評価

野火(1959年製作の映画)
4.0
大戦中のフィリピンの島にて、肺病を患い隊を追い出された田村(船越英二)は、病院に行ってもそんな軽度の病気で入院させられるかと追っ払われて路頭に迷い、敵兵がすぐそこにいるかもしれない戦場をさまよう事になる……というお話。

塚本晋也監督のリメイク版は鑑賞済み。ハードコアな恐ろしさに満ちていた塚本版と比べて、こちらは戦争の無意味さや虚しさを前面に押し出したような気怠げな絶望感が作品全体に蔓延している。
主演の田村を演じる船越英二の心ここにあらずといった表情がまず凄くて、物語開始直後から既に心が壊れてしまっているかの如く虚な目をしている。この人は他の映画では軽薄なあんちゃんというイメージが強かったけど、こんなに重厚な雰囲気も出せるんだなと驚いた。田村という人物はそもそもどうしたいのかがよく分からず生きたいのか死にたいのかすら謎で、ただ惰性で周りに流されるまま動いているだけのように見えて、果たして彼が生き残って日本に帰国したところでもう元の人格には戻れないんだろうなという漠然とした恐怖がある。
ただこの映画が良いのは、そんな暗いテーマを扱いながらもノリ自体は割と軽妙なところがあって、結構笑えるシーンもあったりするのでひたすら陰鬱になるような事はない。

そこら中にゴロゴロと転がっている死体や、病んでここがどこなのかすら分からなくなってしまっている老兵士など、遠い異国の島で人生を終えて行った兵士たちは哀れの一言だし、敵兵にやられた人もいるんだろうけど主人公の田村も含めて「飢え」に苦しんでいる描写がかなり多くて、無理やり送り出された末に見放されて腹空かして死ぬっていうのはホント一番最悪だと思う。
塚本版では明確に描写されていた人肉食の話もしっかり出てきて、時流もあってかぼかされてはいるけどなかなか鮮烈。

戦争、と聞くと銃撃戦だったり兵器が出てきたりするようなイメージがあるけど、そんな戦闘に巻き込まれる事すらなくただのたれ死んでいくだけという別次元の恐ろしさを描いていて、お国のためにと最もらしい事言われた結果がそんな結末だったら悔やんでも悔みきれないし、戦争なんてものには断固NOを突きつけていくのが一番だなと改めて感じさせられた。

(2019.219)
マヒロ

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