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シンドラーのリストのabeeのレビュー・感想・評価

シンドラーのリスト(1993年製作の映画)
4.2
スティーブン・スピルバーグという映画監督は作品によって見せなければいけない部分や隠してはいけない部分と、見せてはいけない部分や見せなくて良い部分を良く考えて理解した上でいつも描いている。
「E.T」に登場する警官が持っていたショットガンをトランシーバーに持ち替えたのはスピルバーグのそんな思想の表れでしょう。

今作でいえば、全裸で並ばされ身体検査を受けるユダヤ人の体を一切隠すことはありません。この作品においてそれを隠すことは不自然極まりない。
これは全て真実を描いたドラマであり、全てはリアルだから。

この作品は全編モノクロで描かれ、観客に印象付けたい局所にのみ鮮やかな赤色を使用している部分がある。
当時の記録は全てモノクロだからその方が説得力があるだろうという理由から採用された色彩だが、色を消すことにより例えば流血シーンは血糊感が消え血の生温かさを感じる。より生々しく、結果的に作品にリアリティをもたらしている。

オスカー・シンドラーという1人の男を変に英雄視せず、戦争を金儲けのチャンスとしてのし上がろうとする野心家の男であることをまずしっかりと描いている。
ユダヤ人を憐れんだり、同情したりする素振りもひとつもない。
オスカー・シンドラーはナショナリズムに囚われず、自分と同じ人間としてユダヤ人に接しているからこそそんな同情心が見えることはなかったのでしょう。彼の中には人種も身分も無く、ナチを批判することもなく(彼自信がナチ党員だった)スマートにユダヤ人に手を差し伸べ、誰もに平等に紳士的に接し、ユダヤの女性の頬にキスをする。
これはリーアム・ニーソンの演技力もあるとは思いますが、オスカー・シンドラーという男の人間性の素晴らしさが全編に渡ってとても伝わってきました。

大人になるとこういう歴史を知っているはずなのに忘れていく。
売れっ子映画監督がこのような作品を作り出すことはその歴史をより多くの人に永遠に語り継ぐことができることをスピルバーグ監督は分かっていて、その責任があると感じているのかも知れません。
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