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CUTのabeeのネタバレレビュー・内容・結末

CUT(2011年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

【この愛を失くしたら死んでしまうから。】

その愛を証明するために、男は自分を捧げ物にした。

遂に観た。
ずっと観たかった本作。
U-NEXTのアカウントを貸してくれた妹に感謝。

芸術としての映画をこの世に取り戻したい。ただそれだけのために日々を生きる秀二。
ヤクザをやっている兄が死んだと知らされ、組の事務所に呼び出された秀二は映画作りのために兄に無心した金が実はヤクザからの借金で、それが原因で兄が死んだことを知る。
兄の代わりに返済を求められた修二は期限までに金を用意できなければ兄のようになってしまうことを知り、何でもやるから金をくれとヤクザに頼み込む。
すると、遊びのつもりでヤクザが言い出した「パンチ1発1万円」の殴られ屋の仕事で大金を手にし、修二はただただ殴られることで期限内に借金を返済しようとする。



これはもう役者の演技力の賜物と言える作品だと思います。
監督の意図がセリフ以外の細かい部分で非常に丁寧に表現されていると思います。
西島さんの独壇場です。西島さんのための映画だなと思います。

なのでストーリーの流れとしては不自然な部分も多いです。
なんせ監督は外国の方ですからね。海外の言語で映画を作っているわけですからシーンとシーンの繋ぎ目にほつれが出るのは仕方が無いのかもしれません。なので序盤は正直なんじゃこりゃって思った展開もありましたし、展開が不自然だと途端につまらない映画に思えてしまいます。
特に西島さん演じる秀二が殴られることで金を稼ぐことに拘る意味が分からなかったのです。
秀二という人物像はただの行き過ぎた映画オタクであり、実兄とはいえ兄のために借金を身を粉にして返そうとするような人物には見えなかったのです。

しかし、終盤になると視線や仕草で物語を紡ぎ、気づけば作品に没入していました。
特にセリフで詳しく語られはしないのですが、秀二がなぜ殴られ続けるのかを観客に感じさせたのは見事。
前半ではあんなにも分かりにくかったのに後半になるとこれがすんごく伝わるように演じられています。
セリフに頼らなくても伝わったのは海外の監督が撮っていることも大きく起因していると思います。
言葉ではなく監督の思いを感じ取って表現した役者の力量ですね。

兄と映画に対する愛を証明するために、彼が捧げることができたのは自分の身ひとつ。
脚本に思いを詰め込んでもそれを表現するための才能も技術も場所も金もない。
ただ、自分の命をかけることしか表現する術を持たない男なのだと解釈しました。
兄の死んだトイレという場所に拘っていたのも同じような理由だと思います。

「ダ・ヴィンチ・コード」の中でキリストと同じ苦しみを味わうことで神に近づけるとして、自ら鞭を打ち、シリス帯という棘のついたベルトを足に巻いているシーンがありましたが、これと同じです。
トイレに拘っていたのは、兄と同じ痛みを負うことで兄への贖罪とする意味があり、同時に映画に自分を捧げるという二重の意味を含ませていました。

なので結末も不思議なものでとても清々しいです。
全編に渡ってひたすらに殴られ続け、西島さんの顔は見るに堪えないシーンばかりですが、最後に見せるあの笑みは自分の愛する映画のためにようやく何かを成し遂げたという達成感があります。
そして、同じことをまた繰り返すのか?とバカバカしく思うほどの選択も、まだ映画のためにやれることがあると自分なりに夢に向かって突き進もうとする思いが伝わってきました。

笹野さんが最高に素晴らしい。
秀二が何のために殴られ続けているのか分からなくともそこに何か光るものを感じ取り、憧れに似たものを抱き背中を押す男を完璧に表現していました。

ということで、最後の「100発パンチ」に重ねて流される「名作100選」は最早自己満足だと思いますし、演出としては邪魔とすら思いましたが、全編に渡り映画愛に狂う男を演じる西島さんに魅了されること間違いありません。

不思議なもので、また観たいです。
常盤貴子の胸で眠る西島さんが可愛すぎた‼︎

とはいえ、まずは「名作100選」のラストに選ばれた「市民ケーン」を観る時がついに来た。
そして続けて「Mank/マンク」を観るという次の休日の予定が決まりました。
abee

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