あなぐらむ

コネクテッドのあなぐらむのレビュー・感想・評価

コネクテッド(2008年製作の映画)
4.3
本作はきちんと版権も取得したハリウッド作の正式リメイク。
元(「セルラー」)も気の利いた小品だった。
どんどんリメイク権が買われている香港映画でその逆をやったというわけで、さすがは香港電影一のアクション派監督ベニー・チャン、オリジナルに敬意を払いつつ見事に香港電影ナイズしてくれた。
(既にベニー・チャンは故人である。58歳。才能ある者は早く死ぬ)

ストーリーはオリジナルと殆ど変わらないが、各キャラクターの設定を少しずつ改変している。
バービー・スー演じるグレイスは本作では生物教師ではなくロボット設計士(機械に強いので電話の修理にも説得力が増す)。夫に先立たれたシングルマザーという設定になっている。
オリジナルでは陽気な西海岸のアンチャンだった、助ける側のキャラクターも本作ではバツイチで子どもにも嘘つきと言われるうだつの上がらないおっさんに。眼鏡をかけて気弱そうな父ちゃんに扮するのはルイス・クー。
ウィリアム・メイシーが演じた退職間際の窓際警官役は、本作では元々優秀な捜査課刑事だったのに左遷されて今は交通課の冷や飯食いになってるニック・チョンに。
これらの改変で各キャラクターが物語に係わる必然性や心理的な共通項を与え、ドラマ面を補強。
更にはルイス・クー扮するアボンは間もなく子どもが海外に留学してしまうため、見送りに空港に行かなくてはいけない、という時間的な枷を加えることでサスペンス色も強化し、気のいいお人よしアンチャンがヒーローに!なオリジナル版の、いかにもB級映画テイストな所ををぐっとリアリティのあるものに昇華しており見事。

子を助けたいと思う母の必死さに加え、子どもとの最後の約束(時間通りに見送りに行く)を守らなくてはならないのに電話の向こうの親子を助けなくてはならないアボンの葛藤、そしてやがて親子を助けることが彼のうだつの上がらない今までの人生の逆転のきっかけとして捉えなおされていくという、男の再生のドラマとして再構築されているのだ。それは同時に、かつて部下だった男(エディ・チョン)に今は蔑まれている刑事ファイ(ニック・チョン)も同様だ。持ち前の刑事の勘で事件を見抜く辺りはオリジナルと同じでも、事件に執着していく理由としてはこちらの方が説得力がある。

かように「コネクテッド」はリメイクでありながら、いやリメイクだからこそ、オリジナルを越える秀逸さを持っている。最近の香港映画の特徴として、台湾、そして大陸からキャストを招く傾向にあるが、本作ではそれさえもシナリオに活かされている。非常に計算された、見事な脚色だ。

監督がアクション専科のベニー・チャンだけに中盤のカーチェイスは壮絶。
狭い香港ならではの高低差や路地を活かした過剰な演出は息を呑む。クライマックスのたたみかける追跡劇~銃撃戦、ライブアクションのガチンコ度合いも相変わらずだ。
そして誘拐犯グループを徹底的に非情に描く(突然のグレイス襲撃シーンは恐怖以外の何者でもない。そしてのっけから死人続出)ことでより後半の逆転シークエンスのカタルシスを高めている。この誘拐犯グループのリーダーを中国のリウ・イエが演じているのだがこれが怖い。表情が殆ど変わらないので、オリジナルのジェイソン・ステイサムよりも冷酷さが増している。

ほんとにお忙しのルイス・クーだが、どの作品でも見事にキャラを変えてきて凄いなと思う。
今回は少し言葉もどもり気味にして、おどおどした感じの小心者がやがて決意と共に親子救出に向かう様を好演。それでいて決してヒーロー然としない小市民のままなのが面白い。
ニック・チョンもかなりのハードワークだと思うが今回もアクションで頑張っていた。
バービー・スーも大人になった。今回泣きの演技が多く、そんなに多くの表情は見られなかったが、娘を助けるべく気丈に振舞う辺り、母親役がしっくりきていた。

先に書いた様々な要素が結実し、ラストはこれまたベニー・チャン監督お得意の泣かせ演出が胸を打つ。
ハラハラするだけでなく、観た後にぐっと来るエンタティメントの見本のような作劇ぶりだ。
オリジナルを観た人は思わずニヤリとしてしまうだろうエンドクレジットも心憎い。

香港電影金像奨でも5部門にノミネートされた本作は「リメイクとはこうあるべき」というひとつの見本になる作品だろう。ただ舞台とキャストを変えて撮ればいいというものではないのだ。