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ザ・ファンのkuuのレビュー・感想・評価

ザ・ファン(1996年製作の映画)
3.7
『ザ・ファン』
原題 The Fan.
製作年 1996年。上映時間 118分。
メジャーリーガーへの過剰な思い入れから次々と異常な行動を重ねていく男の犯罪を描いたサイコ・スリラー。
主演は名優ロバート・デ・ニーロ。
他にはウェズリー・スナイプスほか。
監督はトニー・スコット。

地元球団の熱狂的ファンのギルは、裁判所から息子への接近禁止命令を受け、仕事も上手く行かずクビに。そんな中、スター選手・ボビーのスランプの原因がライバル選手にあると思い込んだギルは、つい凶行に及んでしまう。
さらにボビーを付け回すうち、偶然彼の息子の命を助けたことで家に招待されることになり。。。

昨夜、BS東テレのシネマクラッシュ映画番組にて今作品『ザ・ファン』を視聴。

ほとんどの場合、それは1分半程度しか続かないとしても、一生のうち誰もが15分間の名声を得ることができるというのは事実かもしれない。
ほんでもって、その1分半が人生の早い段階で訪れるとしたら、大人になってからどこまでそれを持ち続けることができるやろうか。
健全な記憶が、いつ現実と空想の境界線を曖昧にするような強迫観念となるのやろうか。
トニー・スコット監督、ロバート・デ・ニーロ、ウェズリー・スナイプス主演の今作品は、その瞬間と、それが直接または間接的に関わった人々の人生に与える影響を検証する、強烈で不穏な映画でした。
サンフランシスコでナイフのセールスマンをしているギル・レナード(デ・ニーロ)は、熱狂的なジャイアンツファンで、チームにペナントをもたらすと信じているスーパースター中堅手ボビー・レイバーン(スナイプス)をオフシーズンに獲得することに熱狂的な関心を寄せている。
かつて活躍したレナードの人生は下り坂。
離婚し、幼いリトルリーグの息子リッチー(アンドリュー・J・フェルチランド)とは不安定な関係にあり、仕事では売り上げが伸びず、職を失いかけていた。
怒りや悩みを抱えたレナードは、人生の重要な局面を迎えていた。 
彼は、選手時代の捕手、クープ(チャールズ・ハラハン)の哲学を常に思い出し、彼が知る限り最も優れたアスリートの一人と考えていた。
そして、人生が悪化するにつれ、彼の強迫観念は現実の認識の不均衡にさらに拍車をかけ始め、ついに彼は帰還不能点を超えちまう。
スコット監督作品は、野球というよりも野球そのものが人生や本当に大切なものとどのように関係しているのかを描いている。
レイバーンが云うように、
『ここでは癌を治すのではない』のである。
しかし、人生が1分半に短縮され、それにしがみついている人々にとっては、ゲームがすべてとなりうる。
今作品でスコット監督が検証していんのは、まさにその不健康な執着心。
執着心の強い人の中では、比較的些細な瞬間が途方もなく重要なエピソードとなり、ついにはその人に残された現実感のかけらをも歪めてしまう。本当に恐ろしいんは、よくよく観察してみっと、レナードには何らかの形で共感できる部分があちゅうこと。
怒り、フラストレーション、そして1分半の時間が単なる楽しい思い出ではなく、実際にはそもそも存在しなかったかもしれない別の場所、別の時間への不健康な生命線になりそうなときでさえ、手放すことができない。
それは、"過去に一度もなかった人 "が自尊心を求めているようなもので、その曖昧さに気付くことも受け入れることもできない。
作中、レナードがリッチーに云ったように、
『野球は人生より優れている、なぜなら公平だから。犠牲フライを打っても、平均値にカウントされないんだ』と。
その理想は、レナードには永遠に届かなかった。これまでの人生で、彼は『チーム(仕事)のために自分を捨てる』ことができず、その見返りを得ることもできなかった。
レナード役のデ・ニーロは、一見すると『タクシードライバー』(1976年)のトラヴィス・ビックルや『ケープ・フィアー』(1991)のマックス・キャディを思わせるような爆発的な演技を見せている(実際そうやったけど)、しかし、よく見ると、レナードはユニークなキャラと云える。 デ・ニーロが描いたこれらのキャラがそうであるように、精神に異常をきたした者には共通点があるかもしれない。
ビックルは社会病質者であり、キャディは冷酷な殺人者。
しかし、レナードは自分の人生をうまく処理することができず、自分の強迫観念に支配されながら生きてきた男。
デ・ニーロは、このような演技がしばしば見落とされるほど、登場人物をリアルに表現する能力を持つ、まさに名人芸の持ち主です。
彼のレナードは、日常生活で遭遇しそうな人物なので、振り返ってみると怖いくらいです。
しかし、それはデ・ニーロに期待する演技であり、いつものように彼は期待を裏切らない。
また、ウェズリー・スナイプスも、レイバーン役を過去最高の演技でしっかり演じているが、これは誰と組んだかを考えれば当然かな。
デ・ニーロには、一緒に仕事をする人たちをより良くする能力があり、それは彼らの中にずっと残る。
スナイプスも例外ではなく、また、ベニチオ・デル・トロも、レイバーンのライバル外野手、フアン・プリモを印象的に演じている。
パティ・ダバンビル(エレン)、エレン・バーキン(ジュエル)、ジョン・レグイザモ(マニー)、クリス・マルキー(ティム)、ダン・バトラー(ギャリティ)、ブランドン・ハモンド(ショーン)など脇役陣も豪華でした。
今作品は、人間の心理の原因と結果について、真の洞察を与えてくれる示唆に富んだスリラーでした。
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