裕次郎のサラリーマン出世劇。北原三枝とは結婚目前。裕次郎映画は明朗である程面白いという持論に違わない、いい意味で冗長でだらりんとした牛原陽一の演出もあって気楽に見るにはもってこいの娯楽編になっている。マンボ風の主題歌も耳につく軽快さ。
ちょっとピントがずれてる真っ直ぐで一本気な若手社員が、重役の懐に飛び込んで誠実さで心を掴んでいく源氏慶太原作に、裕次郎の蔭りの無さがぴたりと合って、名相棒・長門裕之の立て板に水なコメディリリーフもばっちり。このプロットはそのまま「堂堂たる人生」でリメイクされているが、ヒロインの魅力で言うと「堂堂」が断然よい。だっていづいづだもの。
本作の北原三枝は添え物感が強く、ラストの老けメイク(ドリフみたいな)まで良い所が無い(だが恐ろしく美しい。ほんとに美しい。みんな憧れたろう)。益田喜頓、藤村有弘、三島雅夫辺りのお馴染みの面々の安心感も楽しい。東京、大阪、沼津と忙しくロケーションを変える物語に、高度経済成長の話感が漂っている。
裕次郎とは珍しい笹森礼子がトリスバー(!)の女給で、しかも小沢昭一の嫁さんという面白い役どころで出ていた。可愛くて花もあるのに、上手く使えていないのは勿体ない。一方の中原早苗は安定のパパ探しキャラで、実際この人が一番密偵らしい情報力を持ち二人を支えて行く。
裕次郎は銃を使わない。いつだって拳と拳で解決して涼しい顔なのがいい。爽快だ。牛原陽一は大映の島耕二、木村恵吾の下だった人という事なので、大映喜劇の風合いもある。脚本の松浦健郎も新東宝などでサラリーマン喜劇を書いて来た人なので、時代のアベレージを知る事ができる。