馬井太郎

切腹の馬井太郎のレビュー・感想・評価

切腹(1962年製作の映画)
4.5
なにかあると、「腹を切る」という風習は、日本だけだと、私は思うが、読者諸氏諸兄にあっては、いかがだろうか。
腹を割って話そうじゃないか、焼肉料理代は自腹を切ったよ、などなど、命にかかわらない日常語として、よく使われる。ところが、刀をもって自分の腹を本当に切り裂く、となると、これは、とんでもないことになる。その行為が、ある意味で、時には、美徳とされた時代に生まれなくてよかった、とつくづく思う。
それを逆手にとって、生活に困った浪人が武家屋敷を訪れ、切腹の介錯を願い出る、というようなことが、ある時代流行したという。たいていは、思い留まらせ、いくばくかの金銭を与えて追い払った。
生活に困窮した石浜朗は、慈悲を期待して三國連太郎の屋敷を訪ねる。三國は、思い通り腹を切れ、と命ずる。

ある日、その三國の屋敷を、仲代達矢が訪れ、切腹の介錯を願い出る。物語は、ここから、カットバックと現実を交差させながら、淡々と進んでいく。

女優は、ただひとり、岩下志麻、ほんの一瞬、人妻としての「お歯黒」が見える。昨今、時代劇では全く観ることがなくなった当時の化粧?のひとつである。
それにしても、仲代の笑い声は、いい! 3、4回?くらい、あったろうか? 微妙に異なるその声質、耳の奥に刻み込むべし。

花は桜木 人なら武士よ~ 武士といやれば~・・・
武士の誇りは、二刀帯刀と月代髷(さかやきまげ)・・・そして、武士道で鍛えた魂ぞ。

余談:仲代達矢と丹波哲郎の決闘シーン。真剣を使ったそうだ。場所は、護持院ケ原。現在の東京千代田区一ツ橋付近という。皇居(江戸城)の近所にこんな不気味なところがあったとは、信じられない。焼け跡が手つかずだった、という。
森鴎外の作品に「護持院原の敵討」(実話らしい)があるとおり、決闘・敵討ちなど、物騒なことに使われた。狐狸妖怪が出そうに見える。