風に立つライオン

コンタクトの風に立つライオンのネタバレレビュー・内容・結末

コンタクト(1997年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

 1997年制作、ロバート・ゼメキス監督によるSF映画の秀作で、天文学者でコーネル大学教授であったカール・セーガン原作の映画化である。
 
 流石に科学者が原作を書いているだけに物語の進行に科学と合理性が通底している。
 とは言え、テーマは実在するSETIを舞台にした地球外知的生命体とのコンタクトである。
 実際彼はNASAの科学顧問という立場から今も太陽系の果てを飛んでいるボイジャーに知的生命体遭遇用のディスクを搭載したことで知られている。

 物語はそのSETIに働くエリー(ジョディー・フォスター)が宇宙から電波メッセージを受けたところから大きく展開する。
 メッセージは1から100の間にある素数の電波パルスという形で届けられていることが判明。
 数学界ではリーマン予想が160年間解かれていない難問中の難問だが、それを構成している素数がそもそも何なのかがわかっていない。
 神の指紋と呼ばれるこの素数の本質が分かる時、この宇宙の森羅万象が理解できると言われている。
 全宇宙の知的生命体に共通するであろう言語は数学であるとし、πや自然対数eをはじめこの素数も理解把握されているはずであるとカール・セーガンは言う。
 その素数を通信素材に織り込むことによりSFをアカデミックで上質感あるものにしている。

 その電波には画像の他に図面が盛り込まれていて、それはある種の転送装置であることが判明する。
 その画像が1936年のベルリン・オリンピック大会の模様だったのが面白い。
 発信源のベガからの距離を考えると丁度1936年からの電波(光速)が往復する距離であった。  
 ベガ星人も光速は超えられないということか。

 設計図に沿って建造されたものがカルトによって破壊の憂き目に遭うも、秘密の2号機が日本の北海道で造られていたことから、これに搭乗することになったエリーの見たものは‥。

 エリーはワームホール(アインシュタイン-ローゼンの橋)を通って別の世界に到達し、そこで亡くなった父親と再会するが、それは知的生命体が創ったイメージであった。
 
 再会を約し地球に戻ってみると時間が何も経過していないことに気付く。
 見守っていた科学者達もエリーが乗ったポッドが落下した瞬間を見たに過ぎなかった。
 エリーの報告は妄想だと委員会から断罪されるが、調査の結果、エリーの乗ったポッドは切り離しから着水までに18時間経過したものであることが判明した。 

 この時空を超越するというシークエンスもアインシュタインが匂っていていい。

 この映画の特徴は天文学者にして科学者たるカール・セーガンが原作者であることからすれば、サイエンティフィックでロジカルなタッチであるのは当然ながら、マシュー・マコノヒーの牧師を用意して宗教的アプローチを対比的に試みている点である。
 現実としてもかねてから宇宙の生業や人知を越えた領域を取り扱う時の常套手段として宗教を持ち出さなければ収まらないものではあったし、そのことは今日に至るまでの科学者とバチカンの攻防が物語っている。
 137億年前にビッグバンが何故起こったか、宇宙とはどういうものなのか、生命や意識の存在理由は何なのか等の問題には神(創造主)を持ち出さねば収まりがつかないのが今でも現実である。
 そういう意味では高度に進んだ知的生命体は神と見まごうものと言えるのかもしれない。

 そしてこの映画は地球外知的生命の存在を取り扱っていながらそれを顕在化させていないそのこと自体が「2001年宇宙の旅」同様、SFでありながらアカデミックで品のいいものにしている所以かもしれない。