アニマル泉

戸田家の兄妹のアニマル泉のレビュー・感想・評価

戸田家の兄妹(1941年製作の映画)
5.0
戦時下の小津作品。東京物語の原型のような作品である。小津はレオ・マッケリーの「明日は来らず」を既に見ていたのだろうか?高峰美枝子が素晴らしい。後に原節子が継ぐことになるヒロイン役として輝いている。
冒頭から「記念撮影」である。周知のように小津作品で記念撮影は描かれない。だからいきなり不吉になる、案の定、当主の藤野秀夫が突然死してしまう。さらに不吉なのが「階段」だ。あまりにも有名だが小津は決して階段を描かない。唯一の例外が「風の中の牝鶏」だ。本作ではまさかの高峰美枝子が階段を下りる。そして三宅邦子と口論になり家を出ることになる。さらに吉川満子が階段を上がる。そして学校からの息子への注意の手紙を読み、母の葛城文子と高峰美枝子を追い出してしまう。本作はなんともレアな展開が満載なのである。高峰美枝子がたびたび父の遺影を見るが、遺影が小津作品で示されるのも珍しい。
父の死で葛城文子は高峰美枝子を連れて子供達の家を転々とする。それぞれの家のセットの違いが面白い。小津はそれらをシンメトリーな構図で描く。襖の枠や桟で画面が矩形に分割される。モンドリアンの絵のようだ。窓の外は遮断されている。ロケとのマッチングはない。後期の小津作品のセットをすでに彷彿とさせる見事なセットだ。三宅邦子の家の襖は斬新な扇の柄を配している。
父が亡くなり泣く高峰美枝子の頭に次男の佐分利信がソフト帽子をポンと乗っける場面にハッとする。「女性と男帽子」は映画的な感性を揺るがさられる神話的な主題だ。随時挿入される九官鳥も印象的だ。
「廊下」が頻出する。電話があったり、玄関と接続しているからだが、それ以外でも小津は人物の出入りを律儀に撮っている。扉こそないがルビッチの出入りの律儀さと通ずるものがある。
「葬儀」が2回描かれるのも珍しい。最初は切り取ったサイズのカットを重ねてマスターショットはない。2回目は一周忌だ。どちらも佐分利信が遅れてくる。佐分利信は冒頭の記念撮影も遅れてくる。冒頭の場面は高峰美枝子が佐分利信の着替えを手伝うのだが珍しいワンカットで描かれる。カメラはフルショット、高峰と佐分利が隣の部屋にアウトしても空ショットのまま固定されてやがて着替えた佐分利と脱いだ丹前を持った高峰がインしてくる。珍しいフレームアウト・インの長回しのカットが斬新だった。カメラサイズを人物の立ち姿の高さで決めて待つ、奇妙な構図の「待ちショット」も何回か見られる。一周忌の場面で、佐分利信が正座して頭が切れてもそのままという妙なショットで、あぐらをかくと決まりサイズになる待ちショットがある。一瞬、間違えたカットのように見える、あのカットは何なのだろうか?
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