円柱野郎

宮本武蔵 -双剣に馳せる夢-の円柱野郎のネタバレレビュー・内容・結末

宮本武蔵 -双剣に馳せる夢-(2009年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

タイトルだけを見ると流行に乗った時代劇かなんかかと想像してしまうが、やはりそこは押井守の脚本。
そのウンチクの押井節全開っぷりは一筋縄ではいかない出来です。

ドキュメンタリーであるというのは前述の通りだけど、その宮本武蔵像について、構成の脚色などを取り払った彼の真の姿に迫るという面白い視点で語っていく。
曰く、彼の兵法は個人の戦闘ではなく合戦を理想としたものである。
曰く、彼の剣術は陸上戦闘においても特に騎乗を想定としたもので、そのために片手ずつの持ち替えによる剣術から始まり、それが二刀流となる。
曰く、二天一流の名称の由来とは、二刀流のことではなく、すなわち関ヶ原の雪辱に由来する「二つに分かれた天下を一つとするための流派」である。
そんなことが云々と語られていく。

武蔵自身が、一乗寺の吉岡一門との決闘を何度も語ったのと対象的に、巌流島での小次郎との一騎打ちはほとんど語らなかったのは、合戦以外には闘いに意味を持たなかったからだ、と。

総じてそれは押井守の解釈に過ぎないわけだけど、そのウンチク責めを見ていると本当にそうではなかったと思えてしまう説得力があるのが面白い。
そして冒頭では武蔵を語る前にヨーロッパの騎士道から戦車に至る兵器論が語られ、明治以降に作られた武士道というイメージの歴史的背景まで、その辺に興味のある人間にとってはグイグイ引き込まれるテーマの洪水。
いやあ、俺はずいぶん楽しませてもらいましたw
(逆に、興味のない人には何を言っているのかついて来れずに意味不明のまま終わるかも?)

ドキュメンタリーチックという点では、押井守の「立喰師列伝」等と同じジャンルになるのかもしれないけど、押井氏自身の妄想ドキュメントである「立喰師~」と違って、「宮本武蔵~」はよく知られた物語がバックであるので、観客からすれば素直に世界に入っていける。
そういう意味ではまだ一般受けしやすいかもね…??

さて、メインストーリーである武蔵ウンチクの合間に、武蔵と宍戸某、吉岡一門、小次郎といった好敵手との決闘シーンが差し込まれていくのだけど、ここも素直な演出ではない。
何がって、浪曲をバックに戦闘シーンが繰り広げられるんですな。
俺も一瞬面食らったけど、これがまた合っていてカッコイイ。
ドキュメンタリーチックな構成とアクション、そして浪曲の組み合わせという、まあ何とも独特な作品です。
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