新潟の映画野郎らりほう

ラスト・ターゲットの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

ラスト・ターゲット(2010年製作の映画)
5.0
【グッバイ、ミスターバタフライ…】


完璧、全てが。 最大級の敬意と伴に「最高の暗殺者映画」の称号を捧げよう。
劇的誇張表現無し、荒唐無稽展開無し、台詞頼りの安易心理説明無し。 全てがストイックな 私が望み続けた理想像。

冒頭、二人の男との銃撃戦が 呆気ない程早くカタがつく。 盛り上げる為の誇張を排した その即物性に痺れる。 その場から逃げ、車でトンネルを延々と行くクルーニー迄がアヴァンタイトル。 完璧な導入部だ。 暗殺者なのか諜報員なのか? 映画はそれすら説明しない。 銃の改造に長けている事から ガンカスタムをメインとしたアサシンである事が『伺える』のみだ。
街行く人々 ~単なる一般人なのかそれとも男を追って来た刺客なのか解らない~ 敵に追われ田舎街に身を潜める男の緊張と焦燥を 『説明しない』事で見事に表現する。
男は危険を断つ為に 人との関わりを絶ち孤独へと身を置く。 よって台詞は最少。 ガンカスタムのプロフェッショナルぶりだけが只々映されてゆく。

…徹底して自己を孤独に置く男をストイックに捉え続けるキャメラアイに浮かび上がるのは、しかし『人への切な過ぎる迄の希求』だ。 いかに人との交歓を欲しているのかを 真逆環境-孤独を徹底視する事-だけで表してゆく。
…娼館での情事で 男を悦ばす為に娼婦がイったフリをする(様に見える)。 演技はヤメろと男は言う。 ~誰も信じられない男は、しかし だからこそ狂おしい程『人を信じたい』のだ。
…銃を受け取りに来た女が 「自分の直ぐ側を試射しろ」と言う。 男と女の顔がカットバック。 試射後「消音効果を確認した」のだと女。 …コレだけ…。 ただコレだけに『この負の世界から抜け出すには、誤射 或いは確信射によって齎される"死"のみ』とゆう男女の絶望的境遇が透過する。

…ヤラれた。 完全に見誤っていた。 これは「完璧なロマンティシズム」だ。
ハード&ストイックな世界は、繊細甘美なプラトニックを発露する為の[方便]だったのか。
その刹那、それ迄の全てがロマンチックな色を帯びてゆく。

最少台詞であった故に胸鷲掴む『愛の告白』。 そしてまた車を走らせるクルーニー。 …嗚呼、遂にトンネルを抜け出せたんだ…。
そして行き着く先。 鳴り続けるクラクション。 キャメラは上へ、上へ…。

…グッバイ、ミスターバタフライ…。

そのロマンティシズムに、その美しさに立ち尽くした。




《劇場観賞》