回想シーンでご飯3杯いける

TATSUMI マンガに革命を起こした男の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

3.5
1950年代から2000年代にかけて活動していた漫画家、辰巳ヨシヒロの生涯を、彼自身の作品をアニメ化した短編を交えながら紹介する作品。

元々は手塚治虫に影響を受けて活動を始めた方らしいのだが、その作風は当時の漫画=子供向きというイメージを覆す、大人の鑑賞を想定したもので、彼自身はそれを「劇画」と呼んでいた。本作に収録された5本の短編アニメは、広島への原爆投下に始まり、アメリカ軍占領下、高度経済成長期、窓際族といった社会問題を盛り込んだもので、セックス描写や残虐描写も多い。しかし、それは辰巳氏が見てきたリアルな日本の光景であり、敗戦がこの国に残した傷跡がいかに大きなもであったかを表していると思う。

特に秀逸なのは、5つの短編アニメが、辰巳氏の人生とシンクロするように描かれる終盤の演出だ。こんなメッセージ性の強い漫画家が手塚氏以外にも存在したという事実に驚かされるが、現代に於いて彼を再評価する本作の作り手がシンガポールの監督である事に、何とも複雑な気持ちを抱いてしまう(どうして日本人は彼に着目してこなかったのか)。また、声優として大活躍している別所哲也の存在にも注目したい。実は相当な映画マニアだという噂を聞いた事がある。