磔刑

ファンタスティック Mr.FOXの磔刑のレビュー・感想・評価

ファンタスティック Mr.FOX(2009年製作の映画)
4.2
「何もないがある世界」

ストップモーションの世界観構築、ケレン味溢れる演出は流石の一言に尽きる。特にMr.フォックスとラットの電撃の中での対決が最高にカッコいい。如何に動いている様に見せるかで作品の良し悪しが決まるストップモーションアニメで、あえて静止画丸出しで演出する思い切りの良さはCGアニメが市場を席巻する作画至上主義のアニメ界を穿つ、アニメーションの本質に迫る最高にクールなシーンだ。動物達の説得力の無い間抜けな穴の掘りもストップモーションアニメだからこそ罷り通る観客が容認出来る演出のギリギリのラインを攻めている。その様なリアルに演出する事が馬鹿らしく思えるドタバタ劇はボンヤリ眺めているだけでも十分楽しめる。

内容はあって無いようなものとか言うと何だか負けた気がする。しかし、がんばって考察した所で精々、害獣も人間界で揉まれながらも健気に生きてんやでー。でも野生動物としての生活も恋しいなー。みたいな薄い内容程度しか読み取れないので、あえて言及する程でも無い気がする。
だからと言って『犬ヶ島』で黒犬を洗ったら実は白犬でしたー。って展開を「ホワイトウォッシュだ!!」って無理くり現代の映画業界の問題に絡めて発狂するのは如何なものかと思う。いや、でも本当にそれぐらい拡大解釈しないと批評の仕様がないのも分かる。あれだけの情報量があるにも関わらず「意味は無いだろう」とか言っちゃったら批評家の沽券に関わる案件なのだが、それが逆に作品のメッセージ性が希薄である事を裏付けてしまっている。しかしだ『犬ヶ島』にしろ本作にしろ、その何もないが沢山ある世界だからこそ、観る者を無垢な気持ちで楽しませる事も邪推すらもし放題な訳だ。

だがその様なまどろっこしい事をしなくても「たのしー!」「かわいー!」「おもしろーい!!」って五歳児あるいは、何処ぞの“害獣フレンズ”並みの知能指数で鑑賞した方が遥かに楽しめるのでオススメである。
まぁ、その薄くて軽い独自のノリと感性がウェス・アンダーソン監督の作家性で、重苦しかったり堅苦しい内容じゃ無いからこそビジュアル演出に観る者の注意を向ける事が出来ている。なので一概に内容の薄さを悪いとは言えないだろう。
磔刑

磔刑