yoshi

スピードのyoshiのレビュー・感想・評価

スピード(1994年製作の映画)
4.3
誰にでもおススメできる映画とは難しいものだ。性別、年齢、人種を問わず、楽しめるもの。新年度の始まりにウッカリ「趣味は映画鑑賞」と自己紹介したら「面白いおススメは?」と性別と色んな年代が混じる同僚集団に聞かれた。考えた末に(酒の席の勢いを借りて)この映画を推した。以下、その場で説明した理由である。

90年代のアメリカのアクション映画。
もう20年以上前になりますね。
(1994年公開で、現在2019年なので、もう25年前ですね…)
よく当時「ダイ・ハード」って映画と比べられたんですが、「ダイ・ハード」知ってますか?
ビルの中という限定された空間でのアクション映画。
これもエレベーター、バス、地下鉄と狭く限定された空間での緊張感あるアクション映画なんですよ。

ナニ、若い人は「ダイ・ハード」見たことない⁉︎
え?愚痴っぽいハゲ親父の映画?
え?ハゲのカーアクションシリーズ?それ「ワイルドスピード」!
(酒の席なので、酔ってこんなボケとツッコミが飛んだ。)

私がおススメする理由は…
①主役がカッコいいこと。
②ヒロインに親近感が湧くこと。
③題名どおり、スピード感のあるノンストップアクションの脚本。
④本物を使った破壊とスタント。
⑤憎たらしい悪役。
…んーこの5つですね。

ロサンゼルスのあるオフィスビルのエレベーターに爆弾がしかけられて、乗客が閉じこめられる事件が起きるんですが、
警察の特殊部隊の若手で、ジャックってのが、相棒と乗客を救出する。

この主役のジャックがキアヌ・リーブスって、東洋の血が入ったイケメン俳優なんだけど知ってます?
「マトリックス」や「ジョン・ウィック」っていう映画にも出てるけど…。

んー、若い人は知らないか!そうか。
この時は彼も若くて、肉体改造して、逞しくて、しかも坊主頭にして高校球児みたいで、爽やかで精悍だった。
仕事のためには、見た目なんか気にしない!って感じで、坊主頭で私服のファッションもダサいのがいい。
男は見た目より中身が大事ってのが、一目で分かる。
イヤ、顔もスタイルもカッコいいですよ。そこの女性陣の皆さん、それは保証します。

で、爆弾犯人の男を追い詰めるけど、あと一歩のところで逃げられる。
数日後に、ジャックに犯人から1本の電話が入るんです。
お前への復讐のため、あるバスに爆弾をしかけた…と。

爆弾はバスの時速が50マイル(80キロ)をこえると起爆装置が作動して、速度がそれを下回ると爆発する。
1人でも乗客を降ろしたら、その時点でバスを爆発させるぞ。
助けたかったら、金を用意しろ!と。
そしてジャックの長〜い1日が始まるわけですね。

で、そのバスは、昔の少女マンガみたいに仕事に遅刻しそうで走ってきたアニーっていうヒロインの女の子を乗せて出発したばかり。
朝の通勤ラッシュ時間帯のバスだから、ほぼ満員の状態で爆弾があると思うと、働く身としてはゾッとするでしょ?

ジャックはバスを車で追いかけて、飛び乗るんだけど、警察が自分を追ってると勘違いした乗客が、バスの運転手を撃っちゃうの。
一番近い席にいたアニーって女性が、代わりにバスを運転するんだよ。
この娘さんが度胸があるんだ!

バスの運転手と知り合いだけど、咄嗟にバスのハンドルを握るだなんて、恩義と勇気が無いと普通出来ないよ!人が良いよね。
しかもスピード違反で免停中だから、バスに乗ってた。
明るくて、庶民的で、飾らない、しかも度胸がある。
なんか下町にいる隣のお姉ちゃんみたいな感じで凄く親近感湧くんですよ。
サンドラ・ブロックって女優さん。

このアニーのバスの運転が、また荒いわ、危ないわ。そりゃ免停になるよ、と言いたくなる。

スピード落としたら爆発するから、そのまま市街地を突っ切るわけだ。
車は蹴散らすわ、曲がりきれなくて片輪走行するわ、乳母車跳ね飛ばすわ、終いには途切れた高速道路をバスでジャンプ!

ヒロインはピンチの度にリアクションが大きくて、ピンチを切り抜ける度にドヤ顔したりする。
観客と同じ小市民の気持ちの代弁者となるんです。

当時はCGなど無いので、アクション映画は本物を使うしかなかった。
車の破壊も爆破もスタントも、今では見られない本物が見られるんですよ。
これ全部CGなしの本物のスタント!
ぶつかる音や飛び散る破片も本物だから、迫力が違う。

次から次へとピンチが訪れるわけですが、やっぱり爆弾を解除しないといけない。
主人公はバスを空港に誘導して、滑走路をグルグル回る内に、バスの中の人質を並走するトラックに脱出させることに何とか成功!

空のトラックは空港で大爆発。
でもまだ続きがあってメデタシとは、まだいかない。

あ、話が長い?飽きた?すいません。
私、プレゼンが下手ですか?
最後に悪役の話だけしますね。

犯人のペインは、元警察官なんですね。
爆弾処理の仕事の事故で、仕事を辞めさせられて、逆恨みしたんですね。

え?私のことじゃないですよ。

犯人は警察の手の内が分かっているから、先を読んで追跡を巧みにかわして、観る者をかなりイライラさせてくれます。
警察は犯人のことを「クレイジーだが愚かではない」と言うが、まさにその通り。

デニス・ホッパーって俳優さん知ってますか?アメリカン・ニューシネマの傑作「イージー・ライダー」の監督兼主演俳優さん。

年の功なのか、頭が良くて、大胆不敵で、とっても憎たらしい悪党を演じてるんです。
しかしこんな爆弾を作る技術があれば、犯罪などしなくても他に仕事があるだろうと思ってしまうけど、それを言っては、おしまいか?

映画の悪党は、非情であればあるほど魅力的だが、悪党の最期には壮絶さも必要だと思っている。

でも殺したいほど憎らしくても、少し哀れみを感じさせる不思議な悪役なんです。

だって、想像して下さいよ。
お上のために長いこと働いて、親指なくすほどの怪我したら、もう使えないって、僅かな退職金と勤続記念の安い金メッキの腕時計渡して、お払い箱ですもん。

やってらんねーよって、逆恨みする気持ちも分からないでもない。
いえいえ、だから私のことじゃありませんってば。

ラストは身代金を奪った犯人と主人公が、またまた閉鎖空間の地下鉄で対決するんだけど、犯人が奪った身代金は、ペンキのトラップで汚されて、使えなくされるんですよ。
「my money ー!」と嘆く犯人が何だか哀れなんです…。

それで止せばいいのに、どう見ても定年退職してる歳なのに、逆上して地下鉄の屋根に上がって、息子ほど歳が離れた主人公と肉弾戦となるんです。

でしょー?犯人に勝ち目ないでしょう?
案の定、地下鉄の天井に付いてる警告ランプに頭ぶつけて、死んじゃう。
壮絶だけど、悲惨な最後なんです。

なぜ、そこまでしたんでしょうかね?
私は、犯人は「もうダメだ」と悟って、道連れにしてくれる!と覚悟を決めたからだと思うんですよ。

細かい所は端折りましたが、「スピード」は2時間アッと言う間。
さまざまなスリルを盛り込んで、観客を飽きさせないサスペンス・アクション映画に仕上がっているんです。

まだ見たことのない人には、必ず満足するオススメの作品です。
見たことある人は、何度見ても面白いですよ。

…と語り倒したのだが、興奮の全てを伝えることは出来なかった。
若者は興味がある感じだったが、今作を知ってる人は、「あぁ、アレ。タダのアクション映画ね。」という反応だった。
魅力的に語れなかった自分に反省。

最後に映画好き向けに一言。
本作の脚本担当が、黒沢明原案の「暴走機関車」の影響を受けていると認めているが、本作のかなりの部分が、日本の佐藤純彌監督作品「新幹線大爆破」を下敷きにしていると言われている。

本作が優れているのは、冒頭のエレベータでの爆弾事件のシークエンスで、主人公ジャックと爆弾魔ペインの因縁を設けてから、バスで次々に発生する危機への対応を描いてゆく一連のシークエンスの洗練された流れ。
ここは、本家の「新幹線大爆破」より遥かに上手い。

他にジーン・ワイルダー主演の「大陸横断超特急」も今作に影響を与えた作品として挙げられる。
特急列車に乗った主人公がある女性と事件に巻き込まれる状況、途中からパトカーや飛行機など次々と乗り物を換えること。
最後は主人公とヒロインを乗せたまま列車が暴走するという結末も似ている。

また、あまり語られないが、バスが乗っ取られ、何処までも走り続ける設定と、バスの運転手がリタイアしても、そのまま疾走し続ける走りっぱなしのノンストップカーアクションの設定は、深作欣二監督の「狂った野獣」の影響もあると私は思っている。

色んなサスペンスやアクション映画の美味しいところを寄せ集めて作られた秀作であることは誰もが認めるはず。

そして、この映画にはとても印象に残るセリフがある。
「異常な状況で結ばれた男女は長続きしないのよ。」

極限状況下で男女が恋に落ちることがある。日常とかけ離れた試練を共に乗り越えることが、連帯感を生み、それが恋に発展する、所謂「吊り橋効果」を表したもの。

元の生活に戻った時に、恋が冷めてしまうかもしれない。
でも臆病になることはない。
恋は人生を深く豊かにしてくれる…とラストの爽快感から、そう以前は捉えていたが…。

日常とかけ離れた試練を共に乗り越えて、連帯感が生まれるのは、主演のジャックとアニーだけの話ではない。

バスに同乗した様々な人種と年齢の乗客たち、それを助けようとする警察の面々にも同じことが言える。
バスジャックを中継し、警察から邪魔者扱いされていたマスコミですら、事件解決に協力する。

性別、年齢、人種を問わず、様々な人々が結果的に団結して事件解決に向かう姿は、見るものに「性善説」を残すのだ。

だからこそ「万人が楽しめる映画」だと、私は推した。
なぜ、ふとこの映画を思いついたかというと…職場の面々には、伝わらなかったと思うが、私は試練を共に越える連帯感を言いたかったのである。
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