yoshi

来るのyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

来る(2018年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

夏はホラーが見たくなる。
「一体、何が来るんだ?」という興味から鑑賞。
「リング」のテーマ曲が頭に浮かんだ。
何かが「来る」のだろうから、どうせまた「突然脅かし系のホラー」だろうと鷹を括って、全く予備知識を入れず、お気楽に鑑賞した。
鑑賞後の結論として本作は(かなり攻めの姿勢をとった)ある意味でジャパニーズホラーの新しい形ではないか?…と引き込まれ、且つ感心した。

「人間が怖い」というホラーと「人間以外の霊や化け物によって生命の危機を感じる」ホラーが並行して描かれる。
それが怪談的な「因果応報」によって繋がれ、最後には大規模な日本的なお祓い(エクソシスト)によるアクションの要素も入るというテンコ盛り。
鑑賞後に満腹感があったのである。

悪い子のところにお化けが来るらしい。
幼い頃に「あれ」に取り憑かれた過去を持つ、田原秀樹(妻夫木聡)の周辺で怪事件が多発。
友人に紹介されたオカルトライター野崎(岡田准一)と霊感の強いキャバ嬢真琴(小松菜奈)が調査と除霊に乗り出すが、秀樹は「あれ」に襲われて死亡。
秀樹の妻、香奈(黒木華)も襲われて亡くなる。
事態を重く見た日本最強の霊能力者である真琴の姉、琴子が「あれ」に対峙するが…。

【人間が怖いホラー】
夫の秀樹は「イクメン」であるとブログ上で嘘をつき、実質は何もせず自分に酔っている。
夫の育児への非協力さに呆れ、ストレスが蓄積し、妻の香奈はノイローゼ状態に陥っている。

香奈は彼女なりに立派な母親になろうとして子育てと仕事の両立を目指したが、現実は厳しく、世間の風当たりは強い。
結果、育児ノイローゼは酷くなり、虐待やネグレクトの様相を呈す。
自分自身の現実から目を背けようと、香奈は夫の生前から不倫に走っていた。

夫がSNSで虚勢を張るのは、面倒な子育ての現実からの逃避行動。
妻の不倫も辛い子育てからの逃避行動。
自分の欲求を優先し、世間の前では、良き父、良き母であろうとする虚栄心のために、結果的に子どもが犠牲になってしまう。
この家族はまさに現代の日本社会独特の闇だ。
そんなニュースは連日報道される。
(そんな現代にありふれた闇を「普通の若者」感覚溢れる妻夫木聡と黒木華が演じる逆転の発想のキャスティングが面白い。誰にでも起こるとでも言いたげだ。)

【怪談的な「因果応報」のホラー】
その夫婦の闇に「あれ」が取り憑き、夫婦は殺されてしまう。
子どもを蔑ろにした罰であるかのように。
まさに自分の罪に対する因果応報だ。
オカルトライターの野崎にしても、元妻に中絶手術を強いたという過去があり、素直に人を愛することができない。
野崎が子供を望めない真琴を恋人に選んだのは子育てからの逃避だ。
(真琴役の小松菜奈の、恋愛モノで見る清楚な姿とは、全く違う訳ありキャバ嬢というのも新鮮。)

野崎の心の弱さにも「あれ」は付け込んでくる。
野崎は過去を反省し、田原家の娘、知紗を助け出そうとするが、「あれ」は知紗に取り憑いてしまう。
野崎は自分の因果応報を断ち切ろうとするが、あまりに無力な男だ。
(近年、自信に溢れた強い男の役が多い岡田准一にとっても、いつもと逆のキャスティングだ。)
その無力だが、罪を自覚し、反省している男が強大な力に立ち向かおうとする姿がイイ。思わず同情し、応援してしまう。

【「人間以外の何かによって、生命の危機を感じる」ホラー】
結局、「あれ」とは何なのか?
劇中で明かされることはない。
秀樹の過去と故郷に関係しているが、決して地縛霊ではないし、誰かが幸せな夫婦を妬み壊そうと飛ばした生き霊でもない。
そう思わせるミスリードが上手い。

望まれないまた疎まれる子どもの親を殺し、その子に取り憑くことから、おそらくは水子の霊のようなモノの集合体と思われるが、ハッキリした姿形も名前すら登場しない。
しかし、それがイイ。
おそらく「妖怪でござい」と姿形が視覚的に登場したなら、たちまち特撮映画となり果てただろう。

【大規模な日本的なお祓い(エクソシスト)によるアクションの要素】
クライマックスはマンションの秀樹の部屋で、琴子が儀式を行ない、マンション下の敷地には、日本中からプロフェッショナルらしき神職が多数集まり、それぞれ一斉にお祓いの儀式を開始する。
神職、仏職、祈祷師、果ては韓国(朝鮮?)式まで、まぁごちゃ混ぜ!
霊体の集合体に対抗するには、これぐらい必要だと言わんばかり。
ちょっと日本映画で類を見ない(こちらの想像の上を行く)ゴーストバスターズの決闘スペクタクル!

(琴子役の松たか子の男前なカッコ良さと、柴田理恵が演じる祈祷師のベテランの気概はとても印象に残る。
柴田理恵もバラエティでの姿とは全く逆の役に女優魂を感じる。本作のMVPだ。)

そして全てが決着したラストシーンの破壊力も凄い。
お祓いが全て終わったあとに、無邪気に眠る知紗の夢は幼児向け教育テレビ番組のような「オムライスの国の夢」!

知紗が恐怖や不安から完全に解放されたことを表現したシーンなのだろうが、そのあまりに唐突さに脱力。
野崎でなくとも「なんだ、そりゃ?」と言いたくなるが、そこで平凡な日常が戻ったとして、潔く一件落着!と映画が終わるとは!

並のホラー映画のように、知紗が気がついて「良かった、元に戻った!」と感動にしんみりと涙せずに「オムライスの国の夢」でバッサリ切るなんて、なんと斬新なエンディング!
(ホラーを普段見ない方は「何なんだ?あのエンディング?馬鹿にしてるのか?」と怒り出すだろうなぁ…)

中島哲也監督は、相当な捻くれ者なのだろう。

SNS依存や幼児虐待など、現代社会の問題点を盛り込んで、登場人物の背景をより深く掘り下げたことにより、可哀想なはずの被害者家族を「罰せられて当然」の加害者にしてしまう。
悪霊は人間の闇に取り憑き、罰するのだという因果応報は、罪の無い人を突然化け物が襲う現代ホラーとはまるで逆。
そして出演俳優たちの世間の印象とは全く逆を狙った思い切ったキャスティング。
厳かなはずのお祓いの儀式ですら、壮大なバトルに変えてしまう。

既存設定や配役を逆にした、かなり攻めの姿勢の本作。
その全てが奇跡的に成功している。

思えば「嫌われ松子の一生」で女性の悲惨な転落人生をコメディとミュージカルで、捻りを加えて仕立て上げた中島監督。

本作も非常に捻くれており、こちらの想像の上を行く展開ばかりだった。
そこに引き込まれてしまった。
これまで「リング」以降に量産された、怨霊が、不特定多数に突然襲いかかるだけという予定調和なジャパニーズホラーとは一線を画す新しい作品だと私は思った。

鑑賞後、調べてみたら本作には原作小説があることが分かった。
「大賞の該当無し」を連発する厳しい審査で有名な、日本ホラー小説大賞を受賞した小説「ぼぎわんが、来る」を映像化したのが本作。
なるほど物語の面白さは保証されている。
(まだ原作は読んでません。私は視覚優先人間なので、映画が気に入ったら、その世界観に浸りたくて原作を読むタイプ)

本作は原作小説のタイトルにある化け物の名前すら排除し、必要最小限のタイトルだった。
中島監督はタイトルにすら捻りを加えていたのだ。
それがこちらの想像力をかき立てる効果を上げている。
私は監督の策にまんまとノセラれて見てしまったのだ。
鑑賞後にまで「やられた〜」と思った。

人気コミックや映像化作品が氾濫する現在、日本映画最後の砦は独創的で面白い小説なのだと改めて実感。
今後の日本の映画製作における新たな可能性を示す作品として、(気にいるかどうかは別にして)一見の価値はあると思います。

追記。
原作小説は、琴子と真琴の活躍する「比嘉姉妹」のシリーズなのだとか。
続編が作られたら、絶対見たいなぁ。
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