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女王蜂のyoshiのネタバレレビュー・内容・結末

女王蜂(1978年製作の映画)
3.9

このレビューはネタバレを含みます

市川崑監督×石坂浩二主演版金田一耕助シリーズ第4作。
出演者の豪華さはシリーズ中でもトップクラス!
前3作までの犯人役の俳優を全て登場させており、パッと配役を見ただけでは犯人が分からず、全員怪しい。

本作は設定や演出が前3作とは異なっており、とても異質だ。
それが金田一映画ファンの間では賛否両論のようだ。
伊豆と京都を舞台にしており、それまでのように隔絶された僻地の環境の中だけで殺人事件が起こる訳ではない。
殺人事件は何かに見立てたトリックがある訳でもない。
色味のない陰鬱な風景も控えめ。
他作品と比べて柔らかな光に溢れ、色調が明るく感じられる。(なるほどロケは木村大作先生の撮影)
そして事件の起こった後に金田一が登場する…etc。
「いつもと違う…」が否定派の意見であるようだ。
しかし、私は単なる焼き直しではなく、観客が飽きないよう、製作側が「バージョンアップ」を図ったものだと思っている。
マンネリを嫌い、変化を恐れないスタッフの姿勢には敬意を表したい。

異質ながらも、作品自体のクオリティはとても高い。
本作はシリーズ中、最も「愛情」を強調して演出されたメロドラマの側面を持つ作品だ。
涙もろい私は大好きです。

昭和7年。
速水銀三と日下部仁志の二人の学生が
大道寺琴絵という女性と出会う。
仁志は琴絵を愛し、やがて琴絵は妊娠するが、仁志は母に結婚を猛反対される。
3ヶ月後のある夜、仁志は何者かに撲殺されるが、琴枝が殺したとしか思えない密室の状況から、仁志は崖の上から転落死したと大道寺家の人間は偽装する。

それから4年後の昭和11年。
銀三は仁志の娘・智子がいることを承知の上で琴絵にプロポーズする。
2人は結婚し、大道寺家の婿となった銀三は事業を成功させ、財を成す。

そして昭和27年。
美しく成長した智子に、三人の求婚者が現われる。
そのうちの一人・遊佐が大道寺の屋敷の大時計の間で撲殺され、歯車に体を引き裂かれる事件が起こる。
第一発見者は智子はその場に来るように手紙で誘われていた。

直後、私立探偵の金田一耕助(石坂浩二)が現われ、京都の加納弁護士から19年前の事件(仁志の不審死)について調べてほしいと依頼されたと銀蔵に語り出す…。

劇中、智子の花婿候補が次々に殺される。
また、智子の実の父・仁志の死の謎を知る者が殺される。
なぜか、智子に近づく者が死んでいく。
(守るべき「蜂の巣」を血筋・家系に擬えて、智子に群がる「劣勢の雄」が犠牲になっていくのが「女王蜂」という題名にピッタリである。
敢えていうなら、それが本作の「見立て」だろう)
殺人はまるで何かから智子を守っているようであり、大道寺家から外に出さないための脅しにも見えた。
その原因は19年前の仁志の不審死から続くものだと金田一は睨む。

過去の作品に比べると、連続殺人が「見立て殺人」ではないため、「次はどんな死に方をする?」という興味が薄れるため、どうしても地味な印象がある本作。
また犯人の欲望や愛憎というネガティブな「人間の暗部」を暴く推理という構図ではないため、少し物足りなさを感じてしまう。

しかし話のテンポが早く、見せ場も多いので最初からグイグイ引き込まれる。
特にオープニングからタイトルまでの疾走感と、断片的だが、かなりの年月が経過する物語の壮大さには、一気に興味をそそられる力強さがある。

また市川監督ならではの映像遊びも健在。
茶会での画面6分割は面白い。名優の表情を一瞬だけ見せ、「この中に犯人がいる!見破りなさい。」と挑戦的だ。
要所要所で気合の入った映像が見られるのも本作の魅力の一つ。

連続殺人の原因は、綿密に練られていた犯人の壮大な復讐の計画に起因していた。
しかし、本作はそれ以上に親と子の愛情、恋愛関係の複雑さが丁寧に描かれているので、本作は過去の作品とは比較せずに観る事をおすすめしたい。

クライマックスの謎解きは、ポアロも顔負けの、いつになく強気で推理を語る金田一が見られる。
仁志の殺人現場、狭い「唐の間」で名優揃いの主要人物を前に謎解きを語る金田一の姿はさながら舞台劇か法廷劇のようである。

犯人は大道寺家の当主、銀三だった。
しかし、「智子を守るため」ではなく、いずれ智子も殺すつもりだったと言う。
犯行に至った原因は銀三の幼少期の過去にまで遡る。

仁志の祖父、東小路家の当時の当主は馬で女の子を撥ね殺してしまい、その罪を銀蔵の父に擦り付けた。
銀三の父は投獄され、銀三の家族は虐げられた暮らしを送る。
東小路家への復讐を誓った銀蔵は仁志を殺すことで、その血筋を完全に断ち切ろうとしたのだ。
(冒頭のシーンは学友であった仁志と銀三。既にこの時、銀三は仁志に殺意を抱いて近づいていたとは…結構、ゾッとする)

しかし、誤算だったのは仁志と、銀三が惚れた琴絵との間に生まれた智子だった。
いくら憎むべき家の末裔と言えど、愛した女が産んだ子を殺すに殺せない。
いずれ殺すなら、愛する自分の手で。
そのため、智子に近寄る男を殺してしまう結果となった。
琴枝=智子への愛を再び奪われたくはなかったのだ。

一度は復讐を誓ったが、自分が琴枝を愛した証である智子をいつまでも自分の側に置いておきたいという想いが、新たな殺人を生んだのである。
(金田一が謎を解いた時の、仲代達矢のあの脱力した遠い目…名演です。)

銀三が自供しようとしたその時、智子の家庭教師の秀子が、突然拳銃を編み物袋から取り出し、「私が犯人です」と言い、銀蔵を射殺。
秀子もその場で胸を撃ち、自殺する…。

金田一は秀子の趣味の編み物図に仕組まれていた暗号を読み取って「アカイケイトノタマ」というキーワードを入手する。

事件の真犯人は秀子ということで一件落着したが、金田一は仁志の母・隆子と女中・蔦代と山本巡査を呼び出し、「赤い毛糸の玉」の中にあった秀子の遺書を読ませる。
秀子は19年前の銀蔵と初対面の時から彼に惚れていたこと、しかし銀蔵の愛は琴絵とその娘である智子に向けられいたことが書かれていた。

愛した男の娘が、一生殺人鬼の娘と罵られるよりも自分が全ての罪を被る。
それは秀子なりの銀三への愛の形だった。

仁志の母・隆子は自分が仁志の結婚を反対しなければ、こんな悲劇は起こらなかったと後悔し、涙する。

智子は、自分の父は母と自分を愛してくれた大道寺銀蔵ただ一人だと告げ、自分は大道寺家の人間としてこの里に残る決心をする。

銀三の琴枝、そして智子への愛。
秀子の銀三への一方通行の愛。
隆子の息子・仁志への愛。
そして智子の育ての父親・銀三への愛。

本作はシリーズ中、最も「愛」というものを感じる作品となっている。
陰惨な殺人事件は、愛ゆえに起こった。
全てが解き明かされた時、それぞれの愛の深さに泣けてくる。

前3作の余韻は「虚しさ」が強かったが、登場人物が、犯人の愛情を悟った本作の余韻は「暖かい」のである。

(ラストカットで等々力警部が「君は間違ってなかったさ」と敵対していた金田一を初めて認め、「また会おう」と告げる。
このシリーズ中、初めて警部と心通わせるエンディングも心暖まるのである。)

本作は先述の通り、横溝作品の中でも異質な作品なのだが、映画としてかなり上手にまとめた作品。
それぞれの愛の深さに泣けてくる。
推理物としてだけではなく、因縁の下での人間の情念の深さを味わって頂きたい。

追記。
それにしても超豪華キャストである。
(私のような昭和の人間にとっては)
公開時、本作こそ金田一シリーズのラストと噂されており、超豪華キャストを揃えたのだろう。気合いが違う。
(まぁ、実際には次の作品も制作されるのだが(笑))

大道寺家の家庭教師、神尾秀子に岸恵子。
仁志の母、東小路隆子に高峰三枝子。
大道寺家の女中・蔦代を司葉子。
もう過去3作の犯人勢揃い!
みんな怪しいと思わせるミスリード。

儚げな美しさの大道寺琴絵に萩尾みどり。
人気者だった美男子、沖雅也も出演。

もちろん本シリーズの常連組である加藤武、大滝秀治、小林昭二、常田富士男、草笛光子、坂口良子も出演。
安定のキャストは、もう見ているだけで幸せな気持ちになる(笑)
おとぼけ担当の伴淳三郎と三木のり平もいい味を出している。

その他、佐々木剛(仮面ライダー)、石田信之(ミラーマン)、高野浩之(超人バロム1)と、1970年代前半の特撮ヒーロー番組の主演者が脇で顔を揃えている。

そんなキャストの中で当時デビューしたばかりの中井貴恵がとても新鮮に映る。
「女王蜂」というほど蠱惑的な色気はないが、(そこに横溝正史ファンは否定派が多いようだが)その凛とした清楚な存在感はなかなかのもので、気位は高いが、ウブな「箱入り娘」のヒロインだと思えば、及第点である。
流石、佐田啓二の娘といった感を受けた。

そして、何といっても大道寺銀造役の仲代達矢!
よくぞ、ここまでのキャストを集めたなと感心する。

豪華キャストの名演もあり、私には金田一シリーズの中で、最も「愛」を感じさせる作品に映った。
久しぶりに見たが、こんなに面白かったっけ?と驚いたのである。
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