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50回目のファースト・キスのFilm日記係のレビュー・感想・評価

50回目のファースト・キス(2004年製作の映画)
4.1
今年邦画のリメイク版が公開されたが、周囲の人からは元の洋画の方をよく勧められたので、こちらを観ることにした。

ハワイの水族館で獣医として働くヘンリーが、とあるカフェで出会ったルーシーに一目惚れする。しかし、このルーシーは、1年前の交通事故の後遺症で、"前日のことを全て忘れてしまう"という短期記憶喪失障害を抱えており、次の日にはヘンリーのことも忘れており、不審者扱いされる。この事を知ったヘンリーは、その日以降毎日ルーシーに接近しようと試みる。最初はルーシーの父や弟の反対もあり、なかなか上手くいかないが、次第にルーシーは、ヘンリーの優しさと愛に触れて、毎日彼に恋をするようになる、といったストーリー内容であった。

まず最初に言いたい事として、予想以上に笑いに富んだ映画であった。主には会話や映像を通じて、笑いの要素をふんだんに入れ込んでいたのだが、そのテンポや入れ方が非常にスマートで、最初から最後までずっと笑みをこぼしながら観れて、飽きることのない楽しい映画だった。このお笑い要素は洋画だからこそ成立するものであり、邦画であればかなり削がれてしまうのかなと感じた。

そして、この映画に登場する人物はどれも素晴らしくて、誰1人として不必要なキャラクターはいなかった。それぞれ個性に満ち溢れていて、その示し方も会話の流れから理解できるものだったし、ヘンリーとルーシーに焦点を当てた映画であったので、その他の人物をあまりにも掘り下げたりせずに、表面的で留めていたのも逆に良かった。

ただ、序盤のルーシーの父親が、毎日繰り返しているルーシーと過ごす時間を見せるシーンでは、ルーシーが幸せに過ごすことがいかに厳しいものかが、父親の表情からうかがえ、胸に来るものがあった。

ストーリー展開としては、起承転結がしっかりしていて、運び方は良かった。ただ、最初の20,30分(ヘンリーがルーシーの記憶障害について知るまで)をもう少しコンパクトにできたかなという印象はあった。また、映画全体を通して、さほどストーリー展開に意外性がなかったのが残念だった。

それでも、中盤のヘンリーがルーシーに接触しようと奮闘する10分弱のシーン間に、4,5日分の試みを入れ込んでいたのは、とてもテンポが良くて、故に面白みが増していた。

終盤にかけて、ルーシーの生活をより良くしようと、毎朝ヘンリーがルーシーに自作ビデオを見せるという作戦に出る。そのビデオの中にはヘンリーをはじめとして、ヘンリーの知人や、ルーシーが毎日通うカフェの店員などが皆登場するのだが、この場面が映画全体の中で1番印象的で泣いたシーンだった。このビデオを見ると、人1人の幸せは、多くの人の協力があって、初めて実現するものだということが、よく伝わった。

映像面でも、この映画は素晴らしく、人物2人が会話をするシーンでは、必ず近くに水族館のペンギンやセイウチがおり、時折こうした動物のショットを入れることで、画角的に平坦で退屈になりやすい会話のシーンにも、上手く抑揚が付けられており、映画全体を飽きさせないものに出来ていた。

また、単純ではあったものの、映画の中で、天候を人物の心情描写として有効活用出来ていた。

音楽に関しては、特別良かったというところはないが、ハワイという風土にマッチしていないものはなかったので、物語から気持ちが離れることはなかった。また、久々ビーチ・ボーイズの"素敵じゃないか"を聴くことができ、またもやつい口ずさみたくなったのは、個人的には良かったのかなと思っている。

面白さ:0.8 脚本:0.7 人物・演技:1.0
映像:0.9 音楽:0.7
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