Film日記係

ウトヤ島、7月22日のFilm日記係のレビュー・感想・評価

ウトヤ島、7月22日(2018年製作の映画)
2.5
2011年7月22日。午後3時17分にノルウェーの首都オスロの政府庁舎で爆破事件が発生。その後、午後5時過ぎにオスロから40キロ離れたウトヤ島で銃乱射事件が起こり、ノルウェー労働党青年部のサマーキャンプに参加していた若者など69人が殺害された。実際に起こったこのテロ事件に基づいて作られた作品であった。

観ている自分までもが銃声に身を震わせる体験は初めてであった。72分ワンカットで主人公の少女に焦点を当てて展開し、且つ音楽もなく聞こえるのは百発以上にも及ぶ銃声とそれに伴う若者たちの悲鳴だけ。こうした撮影手法により、自分もその現場に居合わせているような臨場感が作り出され、観終わった後、恐怖心からかなりの疲労感に襲われた。とはいえ、私の感じた恐怖感など現場に居合わせた当事者に比べればちっぽけなものではあるのだが…。実際にテロに遭ったことはなく、ニュース等を通じてテロ事件の実際の映像を幾度か観るぐらいであった私にとって、この映画はテロの恐ろしさを再確認させてくれるものであった。

ここでレビューを終わらせるべきか、私は迷った。実際に起こった惨劇に基づくこの作品に対して、映画的なレビューをしてよいものか…。だが、エンドロールの最後の「この映画は実話に基づくフィクションであり、ドキュメンタリーではない」という監督の言葉を見て、私はあくまでいち映画作品としても色々と述べることに決めた。

まず、映像面について。臨場感を出さんがために、72分ワンカットの手法をとったのは良かったのだが、その割には主人公が動くシーンは映画が進むにつれて少なくなっていき、中盤以降はじっと身を潜めているシーンが多かった。それゆえじっとしている間の会話シーンでは、発話する人物にカメラを合わせるために、規則的に画角を動かすので、感覚的に退屈さを覚え、映画から気持ちが離れることが多かった。また、その会話シーンの多くは、物語全体的になくてもいいものが多く、間延びした感があり、走り回る演者やカメラマンをいったん休ませる時間にさえ感じられた。それもあって、実際よりも映画が長く感じ、ワンカットであることが総合的にみるとあまり良くなかったように思われる。

誰かが近づいてくる気配だけで結局何も起こらないといったホラー映画の常套手段の場面や、謎のオレンジの煙の場面などを削って、もう少し短くしてもよかったと思う。

また、この映画ではワンカットで撮影しているカメラは映画の世界の外にあるものであり、撮影している人は映画内の登場人物ではなかった。にもかかわらず、序盤に何故か主人公がカメラ目線で話したり、銃声が鳴り響くときに、あたかも撮影者が映画内の人物かのようにカメラまでも身を潜めて、ただ岩だけを映したりなど、違和感を感じさせる部分が多かった。

次に人物について。登場人物の恐怖におののく演技は、演技であることを感じさせないほど自然なもので、観ているこちらにまでその恐怖感が伝わってきてよかった。ただ、人物としての行動は理解できないものが多かった。特に主人公の少女は、それまでは友人と共に岸辺に逃げようと言っていながら、突如はぐれた妹を探すために勝手に一人で行動し、かと思いきや全く関係のない男の子に長いこと構ったり、他にも肩を撃たれた名も知らぬ女の子が息を引きとるまでその子と寄り添っていながらも、そのあとに来た知り合いには構うことなく一人で逃げていったりと、観ているこちらがつっこみたくなる部分がよく見られた。それもあって、作品の大半において、主人公の少女は結構冷静さを保っているように思われ、もう少し精神的にパニックに陥る描写があってもよかったかなと感じた。

序盤は“動”のシーンが多く、臨場感満載で息をのむ展開であったが、中盤から終盤にかけて、徐々に“静”のシーンが多くなり、またワンカットがゆえのカメラの動きの平坦さに退屈感を覚え、最終的にはあまり恐怖を感じることもなく、映画にのめりこめなくなったという、自らの策に溺れてしまった出来であった。

面白さ:0.7 脚本:0.5 人物:0.4
映像:0.3 音声:0.6
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