Film日記係

メッセージのFilm日記係のレビュー・感想・評価

メッセージ(2016年製作の映画)
4.7
【ネタバレ含む】

長らく観られずにいたのだが、ようやく時間を取って観ることができた。周囲の評価も高く、自分の中での期待値も多少上がっていたが、実際に鑑賞してみると、それを上回る出来だった。もっと言うと、この作品は好きなSF映画トップ5に入ってくるであろう。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画を観るのは初めてであったが、今では、他の作品も早く観たい!という衝動に駆られているところだ。

突如世界の12か所に巨大な宇宙船が降り立った。謎の知的生命体(ヘプタポッドと名付けられる)と意思疎通をはかるために言語学者のルイーズと物理学者のイアンが軍に召集され、“彼ら”が地球に来た目的は何なのか、そして人類に何を伝えようとしているのかを探っていくという物語であった。

ジャンルとしてはSF映画なのだが、映画の焦点はかなり絞られていて、他の作品に比べて割と地に足着いており、SF映画をあまり観ない人でも物語にすんなりと入り込みやすくなっていた。通常SF映画を観終わった後、“楽しかった!”とか“興奮した!”とかいった感想が大概最初に来るのだが、この映画ではそうした感想よりも先に、胸にぐっとくるものがあった。

ストーリーの前半は、ルイーズとイアンが言語学の観点からヘプタポッドとコミュニケーションを取ろうと奮闘する姿が軸として描かれていた。“Human”にはじまり、自分の名前などの固有名詞を伝え、そして“歩く”や“食べる”などの初歩的な言葉を教えるなど、繋がりのない2つの文化が文字を介して意思疎通を行う原理的なものが繊細に描かれていて、とても楽しめた。

ストーリーの後半は、ヘプタポッドのメッセージが明らかになっていくと同時に、前半の伏線をきちんと回収し、物語全体を通して非常に納得のいくような運び方ができていた。ただ、終盤の流れが少々駆け足気味に感じられた。また、中盤にメディアに感化された兵隊が宇宙船を爆破するというシーンがあり、物語に起承転結をしっかりとつけるために必要だったのだろうが、少々映画全体の雰囲気に合っていなかったかなという印象であった。

人物描写については、登場人物の心情等を言葉で説明される場面もちらほら見られたが、特にルイーズを演じたエイミー・アダムスは表情や手で心情を表現する部分も多く見られ、ルイーズという人物に奥深さを与えていたと思う。

この映画は、過去→現在→未来という時間の一方向の流れを覆す形で作られていた。物語冒頭でルイーズの娘ハンナが生まれてから幼くして亡くなるまでのフラッシュバック的な映像が流れる。しかし、人は言語によってその思考が構築されること、そして過去や未来という概念のないヘプタポッドの文字を通して、その映像はルイーズの過去の記憶ではなく、未来の様子であることがわかる。物語の最後にも冒頭に似たハンナの成長の様子が流れることから、この物語はある意味ハンナの人生の物語といっても過言ではない。ヘプタポッドの文字が丸であり、またHannahの名前が前から読んでも後ろから読んでも同じであることからもわかるだろう。ルイーズは娘の死という悲しみの待つ未来を選択することを決意する。だからこそ、何の気なしに見ていた冒頭のハンナの映像とは違い、最後のルイーズとハンナが共に暮らす映像は、苦しむことを前提に選んだ愛であることがわかり、胸を締め付けるものがあった。最後の描写はまさにこの映画の我々への“メッセージ”であったように思われる。

これほど長々と語りたいと思わせるこの映画はやはり素晴らしい。

またこの映画は映像面・音楽面でも素晴らしかった。映像面では、特に前半のヘリから宇宙船とその一帯を映す部分は美しささえ感じさせる圧巻のものであった。また、場面の明暗の切り替えがとてもよく物語にどんどんのめりこむことができた。音楽面では、独創的で印象に残るものながらも、物語の緊張感を高め、且つ物語に神秘さを帯びさせており、物語をよりよくする音楽として最高だった。

良いストーリ・良い映像・良い音楽の三拍子がそろっており、心にしみる最高の映画の1つであった。

面白さ:1.0 脚本:0.8 人物:1.0
映像:0.9 音楽:1.0
Film日記係

Film日記係