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THE GUILTY/ギルティのFilm日記係のレビュー・感想・評価

THE GUILTY/ギルティ(2018年製作の映画)
4.4
一言でいうと、さっぱりとした味わいの映画であった。これまで観てきた映画の中でベスト5に入る的な感じではないが、逆に粗を探そうとしてもほとんど見つからないというような、ストーリー・人物・映像・音声のいずれをとってもよくできている作品であった。ストーリー設定が簡潔としたものなのだが、起承転結がしっかりしていて、終盤の裏切りもあって、フラッと観に行った割には食い入ってしまった。

緊急通報指令室のオペレーターであるアスガーは、ある事件をきっかけに警察官としての一線を退き、警察官として復帰するための裁判を明日に控えながら、交通事故による緊急搬送を遠隔手配するなど、些細な事件に応対していた。そんな中、今まさに誘拐されているという女性自身からの通報を受ける。アスガ―は電話という唯一の手段を使って事件解決を図るという物語であった。

映画全編にわたって緊急通報司令室しか映さず、事件現場の情報は車の発車音、雨の降る音、女性の怯える声、犯人の息遣いなど電話を通じて聞こえる音のみ。現場の映像は観ているこちらに委ねられていた。にもかかわらず、実際に映像を見ているよりも鮮明に頭の中でその情景が浮かびあがり、映画を観ているというより自分の想像の世界に浸っているような不思議な感覚に至った。更に、観ているこちらを、音しか情報が与えられないという主人公と同じ状態に持っていくことで、主人公へ感情移入しやすいものになっていた。

映像面でも、緊急通報司令室のみながらも、主人公が部屋を移動したり、照明を壊して部屋の明暗を変えたりして、物語に抑揚が上手くつけられていた。また、そうした変遷が主人公の心理描写ともリンクしており、物語全体を耳のみならず、目からも読み取ることができた。また、主人公が現場の様子を聞くシーンをカメラが耳元などの顔による画角で映したことで、自然と緊張感が作り出されていた。

個人的にこの映画で最も評価したいのは主人公のアスガーを演じたヤコブ・セーダーグレンである。アスガーが薬か何かを入れた水の入ったコップを見つめるシーンから彼への関心が高められたものだ。警察官としての正義感がオペレーターとしての彼を突き動かしているのだが、一方で、それ故一線から退くことになったということを自分でも自覚しており、今回の誘拐事件でその2つの感情の間でもがいている様子が上手く表出されていた。(多少リアクションがオーバーな感じがしたのは否めないものの…。)また、物語が進み、誘拐事件の全貌が明らかになるのに並行して、アスガーの過去も徐々に明らかになっていく流れが誘拐に遭っていた女性や友人の警察官との会話から自然な形でこちらに理解できるようになっていた。やり様によっては物語中に挟まる主人公の背景描写が煩わしく感じる場合もあるのだが、この映画では違和感なく入れ込むことができていたのは素晴らしかった。

“THE GUILTY”という題名について。最終的にアスガーが“有罪”なのかどうなのか、自分には判断できることではない。“有罪”という判断は法廷でしかなされないものであり、この映画は次の日の法廷のくだりまでは映していないからだ。ゆえに自分の中でも“有罪”にバチッとはまる説明ができなのが残念であるのだが、少なくとも誘拐されていた女性の語る“ヘビ”というのがある種の“有罪”のメタファーになっているのかなと解釈している。

面白さ:0.7 脚本:0.8 人物:0.9
映像:1.0 音声:1.0
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