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一粒の麦の留のレビュー・感想・評価

一粒の麦(1958年製作の映画)
4.0
開巻「一粒の麦もし死なずば」というフレーズを繰り返す、オルフじみた合唱にどうなることかと心配したが日本映画の良心と呼びたい立派な作品だった。
福島県からの集団就職がテーマだが「三丁目の夕日」などとは志が違うし、1958年の東京の風俗、街の風景(皇居周辺、銀座、国鉄)等すごく興味深い。
貧富の差による教育格差、格差社会の到来、中小企業の苦しさ、政治屋、マスコミの醜さ等をさりげなく描く。
そんなに見せ場はない若尾文子がとてつもなく美しく、本当に輝いている。特に菅原謙次と川岸を歩くシーン、空の青、山の緑、川の清冽!菅原の「福島の町でも一つデパートが出来ると小売店がバタバタつぶれる。」というセリフは3/11を経験した身には原発のことさえも思い起こさせる。
人間は経済や効率だけ考えていていいのか?
特筆大書せねばならないのは上京した中学生達。今どきのタレントには絶対に出せないものをみんな持っている。自動車修理工になった少年の妹役など美形とは対極の容姿。
結局、主人公は菅原謙次や若尾文子といった美男美女の演技経験豊富な俳優ではなく彼ら10代の若者たちである。就職組の技術の実習がうるさいという進学組の数学教師に菅原が「進学する子だけが生徒じゃない!」と怒鳴るとこで涙滂沱。
ラスト、就職担当をずっと辞めたがっていた菅原が校長の東野英治郎に「今年も就職担当させて下さい」と訴えるシーンでは号泣。若尾が願っていた本当の教育者の誕生。
菅原謙次&若尾文子では「青空娘」の100倍素晴らしい。
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