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楽聖ベートーヴェンの留のレビュー・感想・評価

楽聖ベートーヴェン(1936年製作の映画)
1.5
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アベル・ガンス 貝多芬传
楽聖ベートーヴェン
Un grande amour de Beethoven “L’immortelle aimée”
2007年だったかな上海に行った時に買ったDVDで帰国してすぐ見た。英語字幕で。その時はそんなに変だと思わなかったが、再見するとその後の「不滅の恋人」とか「敬愛なるベートーヴェン」より脚色し過ぎじゃないかな?
あの堅物ベートーヴェンが、夫婦の貞節を歌い上げた人が、ジュリエッタ・グイッチャルディとテレーゼ・ブルンスヴィックに二股かけるんですぜ!で、甥っ子のカール(ジャン・ルイ・バロー)とジュリエッタが関係があるなんて!(英語字幕なので詳しくは読み取れてないが)
●ハリー・バウアーのベートーヴェンが容貌魁偉で妖怪みたい。1801年から始まるからベートーヴェン31歳なのに、50歳ぐらいの肥満したおじさん。いくら天才でもこんな不気味な親父に貴族の娘が惚れるかな?
●1801年はずいぶん長く描くが後半、急に年号を次々出してきて1813年から1826年にまで飛んでしまう。強烈な省略!
●ジュリエッタの結婚式で式をぶち壊すかのように教会のオルガンを弾きまくるとか、ジュリエッタに執着し過ぎ!
制作当時の1936年だと不滅の恋人はまだ解明されてなかったのかもしれないが、《ベートーヴェン研究》を書き続けていたロマン・ロランに監修させればよかったんじゃないかな?
○開巻、1801年、ウィーンの街を散歩するベートーヴェン。ある家の中から母親の嘆き声が聞こえてくる。娘が死の床についているのだ。家に入り母親を慰めるようにピアノを弾き出すベートーヴェン。なぜか聞こえてくるのはオーケストラだが。ピアノソナタ第8番『悲愴』第2楽章。ビリー・ジョエルが”This Night”のサビの部分で使ったメロディが流れる。
これはロマン・ロランの大河小説《ジャン・クリストフ》(ベートーヴェンをモデルにしている)『家の中』の章で、子供を亡くした母親のためにクリストフがピアノを幾日も弾いてやるというのに呼応している。まあ有名なエピソードなんだろうね。
○ハイリゲンシュタットでベートーヴェンの耳が聞こえなくなるシーンで流れる雲、稲妻、風に揺れる樹々に、《田園交響曲》の嵐をかぶせ、牧人の神に捧げる感謝の歌に変わっていくのが一番の見どころですね。
《運命》〜1、2、3楽章、第1交響曲〜フィナーレ、第2交響曲〜第2楽章、《英雄》〜葬送行進曲、第7交響曲〜第2楽章、《コリオラン》《エグモント》序曲、ロマンス第2番、《悲愴》《月光》《熱情》『君を愛す』、シューベルト『軍隊行進曲』等が流れる。ベートーヴェンが死ぬとこでは《月光》のメロディに Miserere, miserere dona eis requiem などという歌詞をのせ、ラストはベートーヴェンの死顔に第九の歓喜のメロディがかぶさる。
ベートーヴェン好きにはフランスでのベートーヴェン受容史を知るためにも必見だと申せましょう。
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