愛鳥家ハチ

パプリカの愛鳥家ハチのレビュー・感想・評価

パプリカ(2006年製作の映画)
4.8
今敏監督作品。マッドハウス制作。声優は大塚明夫、林原めぐみ、山寺宏一、古谷徹。原作は筒井康隆で、音楽は平沢進という、まさに天才達の"夢"の競演/饗宴/狂宴。ストーリーは、夢を共有する装置"DCミニ"を用いた悪行を阻止すべく、登場人物達が夢と現実の世界を無軌道に彷徨うというもの。ホラーファンタジーSFと位置づけられましょうか。『インセプション』『うる星やつら ビューティフルドリーマー』『ザ・セル』といった"夢"作品は名作揃いですが、本作もご多分にもれず素晴らしい完成度でした。

ーー相乗効果
 今敏監督はインタビューの中で、「平沢さんの音楽から、映像が生まれてくる感じですね。私にとって音はすごく大切。音半分、映像半分。それが合わさって100ではなく、150にも200にもなっていくと思っています」と語っています(注)。まさに"相乗効果"とはこのことをいうのでしょう。監督は「合わさって」と表現していますが、敷衍すれば、ただ足し合わせる(映像+音楽)というのではなく、相互に乗じあう(映像×音楽)ことで爆発的な表現力が生まれるということなのだろうと思います。
 本作を鑑賞すれば一聴了解、一目瞭然でありますが、恐ろしいレベルの"相乗効果"が発生しており、観る者を呑み込まんとする作品世界が構築されていました。

ーー没入感
 2Dのアニメーションでこれ程の衝撃があるのですから、本作は、VRや3D化にはなじまない映画なのかもしれません。言い過ぎかもしれませんが、外部機器の導入等によって没入感を極端に高めることで、人によってはフィジカルとメンタルの平衡感覚に一時的にも変調を来すことが考えられそうな作品です。作品世界には過度に入り込まず、"夢の世界"をモニター越しに眺めるのが最も良い塩梅なのかなと思った次第です。

ーー作風
 私の理解ですが、一見明るい作風ながら目を凝らすと闇を感じさせるのが宮崎駿監督だとすれば、心の闇を描きながら底抜けに明るい面を垣間見せるのが今敏監督なのかもしれません。そんな今敏監督の作風が余すところなく発揮されていたのが本作といえるでしょう。"万物のパレード"とも呼ぶべきシーンでは、そうした作風が顕著に示されていたと思います。

ーー総評
 本作は、天才・今敏監督の精神が今もなお登場人物としての「パプリカ」あるいは作品としての『パプリカ』の中に生き続けていることを感じさせてくれる作品でした。『攻殻機動隊』に比肩する、後世に残る"夢のアニメーション映画"だと確言できます。

(注) https://www.cinematoday.jp/news/N0009489 (2020/01/17閲覧)
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