〈ダウナーな高揚感。後ろ向きの前進〉
あらゆるジャンルを混ぜ込んだ漢方は、形容しがたい苦味があとを引く。
一見すると親子逆転版『7番房の奇跡』のようで、ハートフルなお話かと思ってしまうのだが、監督はポン・ジュノ。そんな筋書きになるはずがない。
事件と冤罪、経済的に決して豊かではない人々といったポン・ジュノらしい土台から、案外ヒッチコックのように堅実なミステリーをやっていき、そこにコメディとサイコスリラーが常に同居。脱線による路線変更を繰り返す。
そしてそして、あのラスト。
「都合の悪いことは忘れたほうが幸せだ」という『殺人の追憶』『グエムル 漢江の怪物』から続くポン・ジュノの幕引きイズムは、いよいよ主人公の能動的選択によるものとなり、個人的には『オールドボーイ』を想起。観た側はあのラストを忘れられないだろう。