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長い散歩のkuuのレビュー・感想・評価

長い散歩(2006年製作の映画)
3.8
『長い散歩』
製作年 2006年。上映時間 136分。
一人の初老の男と5歳の少女の旅。
男は亡き妻への贖罪の念を背負い、少女は自分の置かれた残酷な境遇を生き延びる唯一の術のように、いつも天使の羽を背中にまとっている。
個性派俳優であると同時に映画監督としてのスタンスを固めてる奥田瑛二。
『長い散歩』は、長編3作目にして彼の映画作家としての確かな実力を示す、涙と感動の名作って云えるかな。

子供や家族をめぐる悲惨な事件が相次いでいる現代社会。
その社会のゆがみや心の暗部を逃げることなく抉り出しながら、日本人が本来持っていた優しさや情緒感を見つけ出し、救済されていく魂のファンタジー。
天使の羽を身につけた少女と、人生を再生させたい男の心の交流は温かな涙を誘い、観る者の心に爽やかな風を吹き込んでくれる。

物語の主人公、安田松太郎は名古屋のとある高校の校長を勤め上げ、定年退職した。
しかし教育者としての厳格さが裏目に出たのか、家庭はうまくいかず、アルコール依存症の妻が死に、一人娘は父を憎んでいる。
妻の葬式を済ませた後、松太郎は家を引き払い、何かを清算するかのように質素なアパートに移り住む。
その部屋の壁一つ隔てたところに、母親に虐待されている少女、幸(サチ)の世界があった。 
松太郎が幸を救い出し、心を閉ざした彼女の手を取り、旅に出るまでに多くの時間はかからなかった。
初めて人間らしい愛情に触れ、頑なな心を次第に開いていく幸。
松太郎にとってそれは亡き妻と自分の人生に対する贖罪の旅でもあった。しかし、同時に松太郎は少女誘拐犯として指名手配されていた。
捜査の網の目は、彼らを次第に追い詰めていく。。。

今作品は私にとって初めての奥田作品ではなく、数年前に『少女』(2001年 )を見て、奥田監督がかなり微妙なテーマに取り組む際の、自然で差別的でない方法に心地よい驚きを覚えた。
今作品は、奥田監督が再び、支配的な道徳規範を覆して、我々社会が十分に理解していない人々や状況に対して、より多くの理解と尊敬を求めるテーマに取り組んでいる点で、それに匹敵するものやと云える。
今作品は、妻を亡くした緒形拳演じる松太郎が自分の家を放棄するところから始まる。
あらすじの繰り返しになるけど、松太郎と家族の関係は険悪で、家を娘に託したものの、娘はそう簡単に松太郎を許そうとはしない。
松太郎はショボいなアパートを借り、一人寂しく生きていこうとする。
しかし、新しい隣人たちは、松太郎の晩年を安らかに過ごさせてはくれず、彼らの口論や喧嘩が薄い壁を伝わって、松太郎は夜も眠れない。
隣人には幼い娘(幸)もいて、ふたりはそれを放置している。
松太郎はこの子を憐れみ、ふと過去の罪を償うチャンスを見出す。
幸に近づこうとするもうまくいかず、幸を誘拐し、二人で大旅行をすることで自分も幸も癒されようとする。
今作品は、奥田監督の作品の中でもドラマチックに描かれてる。
映像は、とてもまともで、堅実で、伝統的な日本のドラマのルックスにマッチしてるかな。
映画の冒頭は少し憂鬱に見えることもあるけど、道中が始まり、日本の田舎の風景が登場すると、感心するほど美しいショットがある。
編集は北野武監督と同じで、伝統的なシーンの合間に、動かない人物を映した静止画をカットすることが多い。
全体として、見ていて楽しい映画やけど、見たことのないものはほとんどない。
サウンドトラックも教科書的なものは否めない。
バイオリン、ピアノ、そしてJ-POPが、この映画の音楽的冒険のほとんどをカバーすることを期待している。
しかし、日本のドラマをたくさん見てきた人には、少し馴染みすぎているように感じるかもしれません。
モラルに議論の余地がある作品は、モラルのジレンマを伝えるために役者に頼ることが多いので、奥田監督が非常に強力な2人の主役を選んだことは、今作品の成功に不可欠やし成功してる。
緒形拳が主役を演じるの松太郎の行動は法律がそれを許さない場合でも、自分の人生をうまくやり遂げようとする傷ついた男を見事に演じきっている。
杉浦花菜も賞賛に値する。
子供と仕事をするのは決して簡単ではないと思うけど、彼女は若いサチを完璧に演じているし可愛くもあり驚かされる。
この役の後、彼女が二度と映画に出演しないのは不思議なことやなぁ。
副キャストも同様に強力で、高岡早紀は、あまり同情できないキャラを引き受けたことで、特別な評価を受けるに値するし、松田翔太の演技を知るなら今作品は最適なほど能力を発揮してるかな。
今作品には、非常にパワフルでエモーショナルなドラマチックシーンがいくつかあるが、奥田監督はドラマチックな要素のバランスを保つのに少し苦労しているように感じた。
時々、彼は運を使いすぎて、この映画には必要ないところで、余計なドラマチックな緊張感をもたらしている。
このような場面は少ないが、なぜ奥田監督はこのような場面を入れたのだろうと思わせる。
とは云え、今作品はとても満足させてくれたし、温かい気持ちにさせてくれました。
今作品がドラマチックなクライマックスを迎え、印象的なシーンがいくつも連なると、こうした迷いはすぐに忘れられる。
奥田監督はまたしても、少し不快なドラマを提供することに成功した。
なぜこの映画がもっと国際的に注目され、評価されなかったのかという疑問は、この賢い組み合わせによって一層強まるかな。
個人的にはとても楽しめた作品でした。
エンディングでUAが歌う井上陽水の名曲『傘がない』も今作品にあってた。
民放の飽きもしないハズレのない映画作品を垂れ流すのと違い、BSは攻めてるなぁ。
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