えびちゃん

悲情城市のえびちゃんのレビュー・感想・評価

悲情城市(1989年製作の映画)
4.5
時代の犠牲になることに理不尽とか、無念とかそんな言葉ではあまりにも軽すぎると思ってずっと下書きこねこねしていたんだけど、まとまらないからもう取り敢えず思いついた言葉のつぶつぶを落としていく。
1945年8月15日終戦の玉音放送とともに幕があがるほの暗さ。日本の台湾統治終了から二二八事件、中国国民党の戒厳令・弾圧に至るまでを、九份の林家を通じて、市井に生きる本省人、台湾に生きた日本人の交歓も悲哀も丁寧に描きだした作品だ。
ものものしい物語の中で描かれるふたつの愛。どちらも言葉はないのに甘美で切なくて優しくて、厳しい物語の中で唯一のやすらぎで、彼らの間に流れる時間だけはゆっくりと過ぎてほしかった。時代が、支配するものたちがそうはさせないのだけど…。
キービジュアルである一族の集合写真、そしてわたしが借りたDVDのアートワークは寛美と文清とそしてもう1人加わった3人のポートレート。観終わって改めてアートワークを見ると深い悲しみとやるせなさが込み上げてくる。実際に未来を断絶された名もなき人々がたくさんいる。
ネイティブ台湾人ではない外省人の侯孝賢監督、製作に携わったそのほかたくさんの本省人や外省人、そして日本人たちが作ってくれて、残してくれたことはとても意味があることだし、有難いことだ。
こういう作品に出会うために、わたしは映画を観続けるんだろうな、これからも。
えびちゃん

えびちゃん