むさじー

白い花びらのむさじーのネタバレレビュー・内容・結末

白い花びら(1998年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

<愛と人間性の回復を説く寓話>

田舎でキャベツを育てながら暮らすユハとマルヤの夫婦は、平凡ながら幸せな日々を送っていた。そんなある日、都会の洗練された男シェメイッカが車の故障を理由に訪れてマルヤを誘惑する。やがてマルヤもシェメイッカに惹かれていき、ユハを捨てて彼と駆け落ちする。夢見心地のマルヤだったが、思わぬ裏切りが彼女を待ち受けていた。
物語はシンプルで通俗的なものだが、その中に深い寓意が込められている。純朴な妻マルヤは農村という楽園から、一旦都会という楽園に憧れるが堕落していき、マルヤを救い出したユハは、都会の消費社会を象徴するゴミ捨て場で死んでいく。そして、農村を象徴するユハの愛と犠牲で救われたマルヤは都会から故郷へと逃げ帰る。
都会の消費社会が人の心を変えて農村社会を壊していく、その波に翻弄された夫婦の悲劇といえるが、ラストにはささやかな希望の光が見える。マルヤへの愛ゆえに自分を犠牲にするユハと、彼の慈悲で赤子と共に故郷に帰っていくマルヤの姿に、人間性回復への希望を託しているようだ。懐古的な表現がどこか切なく、どこか可笑しい映画だった。
本作はサイレント映画というのが売りだが完全無音ではなく、セリフは字幕で表現されるが、一部の効果音や音楽はトーキー並みに映像とシンクロして流れる。そして今どきのサイレント映画だから映像は実にシャープだし、セリフがない分、映像が饒舌に語りかけてくる気がする。特に歌と演奏のシーンが新鮮に響いた。
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