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男はつらいよ 寅次郎忘れな草のKKMXのレビュー・感想・評価

4.3
 つらいよ3本目は11作目、有名なリリー3部作の1発目であります。

 噂に違わず面白い作品でした。リリーが色っぽくてカッコよくて切なくて、彼女が持っていきましたね。リリーが特別なマドンナというのも理解できます。お嬢っぽいこれまでのマドンナとは違い、寅ちゃんと同じトライブですし。


 しかし、リリーが登場したことにより、男はつらいよワールドに揺らぎが生まれたようにも感じました。本シリーズは責任から解放されたネバーランドであり、寅ちゃんものびのびと少年のままでいられるのですが、リリーは非常にガチ度が高く異物感があります。
 リリーの母子葛藤は寅ちゃん母子と違い、深刻な憎しみが伝わってきましたし、リリーの寄る辺ない寂しさは極めてリアルに迫ります。とらやの2階で、ふすまを隔てた寅ちゃんに話しかけ続けるリリーの姿には胸が潰れそうになりました。寅ちゃんはバッチリ応え続けましたが、おそらくリリーの母親は呼びかけに応えなかったのでしょうね。あのシーンは小さな子どもが父親に甘えるように見えて、今のところ本シリーズでもっとも印象に残っています。寅ちゃんはいつもは子どもポジションだけど、あの時は父親のポジションでした。


 つまり、リリーの登場で寅ちゃんの少年性が揺るがされているのです。ナオンに振られ続けることで(毎度いかにも釣り合わない相手を選んでいる)少年性を保っていた寅ちゃんが、ついに釣り合ってしまう相手に出会い、成長のチャンスを掴んでしまったのです。寅ちゃんが成長したら、このネバーランドは終わってしまう。
 しかし、永遠の少年のイメージに囚われた寅次郎は、そう簡単に呪縛からは抜け出せません。寅ちゃんとリリーの恋は、言わば少年と少女の恋。しかもリリーの方が愛着面で不安定という危うさをはらんでいます。ネタバレ的になりますが(このシリーズでネタバレという概念があるのか?)、2人は結ばれず、男はつらいよネバーランドは無事守られたのでありました。

 とは言え、リリーと寅ちゃんの物語は完結せず、3部作となります(4部作とも?)。未来人なので結末は解っちゃいますが、この時点で結ばれなくとも、また時代が巡って出会い、結ばれる可能性を感じる内容でした。浅丘ルリ子は渥美清存命時の最終作で、寅さんとリリーを結婚させたいと訴えたといいます。俺個人としては、その意見に賛成でした。寅さんを幻想的な存在として終わらせるのではなく、永遠の少年を脱して終わる方が個人的には好みです。


 まぁ、42作目以降はさくらちゃんの息子・満男が事実上の主役になるようなので(さくらちゃんの家族は、ネバーランドの中では珍しく成長・変化する存在)、きっと寅ちゃんの代わりに成長を見せてくれるのかな、と想像してます。
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