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ハーパー探偵シリーズ/新・動く標的のsleepyのレビュー・感想・評価

4.0
Harper is back. 優しきトラブルシューター再び ****



原題:The drowning pool、1975年、108分。
ロス・マクドナルド原作「魔のプール」(50年)の映画化。66年の傑作「動く標的」の9年ぶりの続編「新・動く標的」は、前作にはやや及ばないものの、しがない私立探偵ハーパー(ニューマン。原作ではアーチャー)の2枚目半、というか飄々としたキャラは引き継がれ、やはり70年代米映画好きには見逃せない佳作と思う。数年ぶりに再見してこの感を強くした。今回は舞台を前作の(そして原作の)西海岸から南部ニューオリンズに写して、閉塞的な富裕層家族の軋轢と、石油利権の闇の交錯を描く。

ハードボイルド(小説・映画)の例にもれず、ここでも謎解きや伏線回収は二の次であり、楽しみ所は現れては消える有象無象たち、欲と愛憎で歪んで醜い男女たちの間をハーパーが泳ぎ、溺れ、人間関係にくさびを打ち込むこと。とっくに崩壊している空虚な人間関係を露わにしてしまう点にある。そしてトラブルバスターというかトラブルシューターたる探偵が犯罪者、警察双方からにらまれ、心身ともに痛めつけられるのも定石。ブラックメール、マーダー、多淫、モラルと家族の崩壊、強欲、ローカルの闇、そして過去の亡霊。

オープニングは、「動く~」のかっこ悪いかっこ良さ(優作の「探偵物語」に引き継がれる)には及ばないが、刑事に「道化師」と呼ばれるような軽口とはぐらかしは健在でいろんな人を怒らせるのも前作通りで嬉しい。しかし弱者に付き、どこまでも喰いさがり、正義より真実を重んじる存外熱い心意気がやっぱり感じられる。

また、今回も一癖あるキャラ、脇の俳優陣が大きな見所。南部の富豪の妻であり、過去にハーパーと男女関係にあった依頼人アイリスにニューマンの実生活の妻、ジョアン・ウッドワード。これまたハードボイルドにお約束(?)の不安定で罪つくりのティーンの娘に17歳のメラニー・グリフィス(「ボディ・ダブル」「虚栄のかがり火」)が扮している。

監督のローゼンバーグは「暴力脱獄」という名作があるがやや地味な作風で、これといった個性に欠け気味だが、本作の情感演出は良い。撮影は前作のコンラッド・ホールから名手ゴードン・ウィリス(「コールガール」「大統領の陰謀」「ゴッド・ファーザー」シリーズ)に替わっているが、遜色ないどころか良い仕事をしていると思う。いつも通りローライト・レベルの暗部の撮影が冴える夜間シーンは最高。かつ南部をくすんだルックで切り取り、本作の空気を決定づけているニューオリンズ郊外の南部らしい風土や建物、広大な干潟や沼をしっかり織り込んで、西海岸の明るい陽光が定番のこのジャンルに新鮮味をもたらしている。脚色3人のうち1人は監督デビュー前のウォルター・ヒルというのも嬉しい。

余談:(探偵名は違えど)ハーパーのキャラは、後年のニューマン主演作「トワイライト 葬られた過去」(ジーン・ハックマン、スーザン・サランドン共演、ロバート・ベントン監督作)に引き継がれ、人生の黄昏を迎えた探偵稼業の葛藤が描かれて必見の隠れた佳品。すれ違う愛情、5人5様の女たち、男同志の寡黙なシンパシー。ラストはやっぱり痺れる。

★オリジナルデータ:
原題:The drowning pool, US, 1975,劇場アスペクト比(=オリジナル)2.35:1, Panavision (anamorphic) ,108min、Color (Technicolor), Mono, 35mm Film
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