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ストリーマーズ/若き兵士たちの物語のkuuのレビュー・感想・評価

3.5
『ストリーマーズ 若き兵士たちの物語』
原題Streamers.
製作年1983年。上映時間118分。

同名舞台劇を忠実に映画化。
緊張感あふれる会話劇が兵舎内という限定空間で展開。

ベトナム戦争のさなか。
軍兵舎で前線行きを待つ若き米国兵たちはナーバスになっていた。
大学出の真面目なビリー、ゲイであることを公言しているリッチー、そして陽気なロジャーでさえも。
そんな彼らの間に、自分の職務に不満を抱く黒人兵カーライルが割り込んでくる。
戦争に対する恐怖、そして偏見や差別といったことが軋轢を生み、やがて思わぬ惨劇が。。。

主なキャラは、
白人のビリーとリッチー、
黒人のロジャーとカーライル、
古参兵のルーニーとコークスの6人(リストカットして早々に退場する白人兵士と、すべてを見ているだけの青年もいますが)。
死の影におびえている彼らは、その孤独感を癒やすべく理解者を求めようと躍起になって、平凡な思い出話や、軍隊や戦争についての真剣な会話は、ゲイの話題へと移ることで、 次第に緊張感が高まる。
ビリーには潜在的ゲイの気配があるけど、 保守教育を受けた典型的米国人のリチーはみずからがゲイであることをほのめかしつつ、決定的なところでは曖昧にする。
ロジャーは公民権運動以前の価値観から出ていない黒人で、悪意のない差別意識をあらわにすることもある。
カーライルは軍隊を嫌い、他者とのつながりを求めるのと同時に、心の底に怒りを抱えている孤独な男。
第二次大戦と朝鮮戦争をともに戦ってきたルーニーとコークスは、誰の目にも深い絆で結びついとるが、終始泥酔し、およそ英雄的じゃない。
アルトマンは、そんな彼らの会話と表情に現れる感情の揺らぎを見逃さずとらえて、無関係に生きてきたはずの人々の心理状況が煮詰まって暴発するまでの過程を、緊密な筆致で描き展開されてました。
後半で起きる殺人事件の舞台は、戦場じゃなく国内の兵舎で、彼らは、白人同士、黒人同士、ストレー ト同士、 ゲイ同士、戦友同士、 どないな同士でもいいし、戦場に向かう前にささやかな連帯を求めたにすぎないし、浮き彫りになったのは連帯でなく、互いの相違と、底なしの無力感だけ。
個人的には、今の若い人たちを政治的な軍隊に送り込んで欲しくない。
もしアフリカや中央米国の情勢が現状とは違っていたら、この映画は作らなかったと思う。
今作品は、沈鬱な中に込められた寓意は明らかかな。
白血病を思うコークスが歌う
『ビューティフル・ドリーマー』の替え歌
『ビューティフル・ストリーマー』は、
美しき流れ開けよ我が上には空のみ
上空でひもを引けど
パラシュートは開かず
神の名をよぶ
美しき流れ今は最後か
地上は足下に迫る
母のごと我を守れ
美しき流れ開けよ
彼らは頭上に遠ざかる雲を見あげ
次に足もとに迫りくる地面を見たとき何を思うのであろうか。
本作品は、過ぎ去りゆく60年代の米国に捧げた 鎮魂の歌であるとともに、80年代の米国の政治状況への警鐘の歌でもあったんやろな。
しかし肝心なんは、アルトマンの毒が、時を経ても色あせることのない強靭さを持っていることかな。
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