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孤島の王のHKのレビュー・感想・評価

孤島の王(2010年製作の映画)
3.7
マリウス・ホルスト監督によるノルヴェー映画。キャストはステラン・スカルスガルド、クリストファー・ジョーナー、ベンヤミン・ヘールスターなどなど

1915年、二人の少年がノルヴェーにある孤島、バストイ島にある少年矯正施設に収容される。少年たちは高圧的で絶対的な権力を振り回す院長のもと、過酷な重労働を課せられていた。このシステムに反抗し、ひたすら脱走を図る主人公に次第に周りの人間の心も突き動かされていき…

脱獄ものに関しては、やはり以前みた『穴』とか『抵抗』に比べると、及ばないところはあるものの、それでもバストイ島のどこか異世界のような雪景色と、青白い海原や空の光景から、どこか奇妙で神秘的な世界観に魅了されるかもしれない。

実際にあった出来事もモデルにしているために、あまりそこまでドラマチックな様子はないものの、所々やはりショッキングな描写なども入る。寮長は序盤こそ優しく振る舞おうとしているのだが、それは後に彼らに性的虐待を行うためのカモフラージュに過ぎず、そこから彼らは裏でとんでもない仕打ちを受ける。

虐待のされ方、労働の在り方については、以前見た『ベント 堕ちた饗宴』内でも描かれた、意味のない石の移動というものが劇中で描かれる。やはりあの動きを永遠にやらされるのってかなり答えるのでしょうね。

厳格な規律を守ることによって、健全な魂が宿り、そこから初めて更生することが出来ると妄信する院長の考えのもと、どんな妥協も許されない労働生活が行われる。あんな悪行や因習が続いていれば、恐らくあの二人が収容される以前から、壮絶な虐待によって自ら身を投げる子供たちもいたのかもしれませんね。

この映画では、あまり直接的な性描写というものは、描かれません。そのために、そのような家庭に至るまでも想像に任せられるのですが、それを敢えて映像で見せなくても、ひしひしと伝わるものがあるのがいいですよね。

映画内では、その代わり神秘的なバストイ島の風景や浜辺の光景などが見渡せますが、どれも静寂としており、独特の陰鬱さを保っています。この陰鬱さが登場人物たち全員の心情や性格を表しているようにも見える。

次第にそんな生活に対するフラストレーションが少年たちの心に募っていき、終盤、優等生である男の子がついに釈放されるその日に、その出来事が起こります。ここからの爆発からの、反抗が素晴らしいですね。

それまで大人たちの管理下の元、奴隷のような生活をしていた少年たちがついに反旗を翻して暴動をおこしいます。まあ、どうしようもない大人たちがせいぜい二人ぐらいしかいなかったからこうなるのも仕方ないかもしれませんね。

やはり、フラストレーションが溜まってからの爆発、そこからの暴走という日本のヤクザ映画でもお決まりの展開というのは見ていて気持ちがいいですね。そのまま見事に収容所を焼き討ちするのも素晴らしい。

しかし、やはり所詮は少年たち、最終的には軍人たちの介入、彼らの包囲網には抗えず、多くの少年たちがまた捕まりますが、何とか主役二人組の方は難を逃れのですが、あそこの森を逃げるシークエンスも幻想的でとても良かったと思います。

そこから、氷の張った海の所にまで言ってしまうのですが、そこで氷海の床が砕けて…、あそこの撮り方は個人的にですがまんまタイタニックだと思っちゃいましたね。まあ、オマージュにしては有名な所から撮ったこと。

個人的には、あまり提言するような所はないのですが、強いて言うなら、もうちょっと反乱分子たちの横の繋がりをしっかり描いていたほうがもっと良かったと思いますよ。やはり、あそこでの連帯感とかが感じれば、終盤の暴動にもある程度、一体感と見ている人間を納得させることもできると思うので。

いずれにしても見れて良かったと思います。なんかここの大人たちも、権力を振りかざしているけど、完全なクズではなくて、ちゃんと更生させようと目的を持っている所が肝。ブラック企業の社長さんの思考みたいでしたね。
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