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カナリアの消費者のネタバレレビュー・内容・結末

カナリア(2004年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

大規模なテロ事件を起こした事により信者達も散り散りになったカルト教団、ニルヴァーナ
その信者でテロの実行犯の1人であるルーシアこと岩瀬道子の息子、光一を含む信者の子供達はは関西の児童相談所に預けられたのだがまだ洗脳が解けておらず祖父に引き取りを拒まれ妹、朝子と離れ離れにされてしまう
それによって光一は祖父から妹を取り返し再び母と暮らそうと決意し、児童相談所を抜け出す
その逃走中に光一は父の虐待から逃れるべく家出し援交で食い繋いでいた12歳の少女、由希と出会う
彼女はただのドライブを条件としていた男に車中で襲われそうになっていて光一が道を飛び出して車が横転した事によって救われて恩返しとして光一を助けるべく彼と同行する事になる
2人はその道程で由希の友人、ゆかりや元夫と息子、ゆういちから離れて旅行していた女性、咲樹とその彼女、梢のレズビアンカップルなどの助けによって朝子の元へ向かっていく…
というあらすじ

オウム真理教と彼らの起こした地下鉄サリン事件をモチーフとしたジュヴナイル作品

教団から抜けても洗脳から抜け切れていない光一が咲樹との道中での会話やかつて教団で親しくしていた現在は教団を離れて身を潜め生活しているシュローパこと伊沢彰や吉岡と再会してしばらく面倒を見てもらう中で言われた事によって少しずつ教義から解放されていき“俗世”に順応していく過程が教団から抜けられたら終わりという訳ではない、信者ではなく一個人としての自分を受け入れなければならない、という厳しい現実を受け止める必要がある、とカルト教団に囚われていた者に課される“カルマ”としてしっかりと描かれていたのが良かった

一方で洗脳はシュローパの名を捨てた伊沢を始めとした元信者達の様に簡単に脱却出来る物ではない、という事はやや引っかかる物があった
あくまで光一を主軸としている物語だから仕方ない部分ではあるが正気を取り戻していく中での苦悩をもっと激しく描いていればより重みのある現実を提示出来たのでは、と思う

またただの出家信者の息子でありながら光一がラバナという“ホーリーネーム”を与えられるほど教団内で認められるほどになるまでの過程として教義の徹底的な実践なども描写されていればより教団のカルト性が表現出来たのではないか、とも
しかし光一が教団にいた頃、供物と呼ばれる“尊師”のエネルギーが注入されたという食物を投げ捨てた事や吉岡と女性信者、ガルーシャの文通を手助けしていた事などによって罰を与えられる描写は壮絶さが感じ取れていかに悪質な宗教団体だったかがきちんと示されていたので事実を伝える作品としての役割は十分に果たせていたと感じる

結果として終盤、伊沢にコンタクトを取り再会したテロ実行犯で最高幹部の1人、ジュナーナこと津村らと共に光一の母、道子は自決してしまう
それによって光一は一時は絶望し自殺を謀るも由希に「妹を連れて来る、連れて来れなければ自分が一緒に死ぬ」と説得される
そして由希は無事に光一の妹、朝子の住む祖父の家に辿り着き3人で家を後にする、という終わり方
物語自体が強い悲劇性を持つ物なのでハッピーエンドで良かった、とは思うものの子供3人でどう生きていくのか、が全く示唆されていなかった点はやや残念
現実的に考えるとまだ12歳である光一は働く事も出来ないし由希が再び援交で稼ぐ事しか選択肢は残されていないだろう
それもまた悲劇ではないだろうか
なのでそこだけは何か示して欲しかった

そういった粗はやや目立つものの実在したカルト教団とそれが引き起こした蛮行を風化させない、事件が終わっても今なお悲劇は続いている、という事を知るきっかけとしては良い作品だと感じた
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