滝和也

ナイル殺人事件の滝和也のレビュー・感想・評価

ナイル殺人事件(1978年製作の映画)
3.7
再びの全員容疑者(笑)

ナイル河を往く
豪華客船を舞台に
殺人劇の舞台は開く。

灰色の頭脳を持つ名探偵
エルキュール・ポアロの
名推理が光る
旅情ミステリーの傑作

「ナイル殺人事件」

アガサ・クリスティー原作の名探偵ポアロシリーズ第一作にして映画化二作目。エジプトを舞台に若き大富豪の女性を中心に事件は始まる…。

ストーリーは…やめときましょう。丁度リメイク作が公開されてますからね。どうも僕にはケネス・ブラナーの英国人臭さ、シェイクスピア俳優っぽい大仰さがポアロに合ってない気がして…こちらを選択していますが。

全員容疑者、動機ありという点は基本オリエント急行と同じ。かつこちらが先に書かれているようです。しかも監督が社会派シドニー・ルメットからエンタメ監督ジョン・ギラーミンに変わってます。その3点が問題なんでしょうね。

前提として…何よりミステリのギミックは素晴らしくて、推理ものとしては流石アガサ・クリスティー。またエジプトと言う異国情緒溢れた情景描写が素晴らしかった。カイロの街、ギザのピラミッド、スフィンクス、そこに現れる名探偵。アブシンベル神殿の危機、そしてナイル下りの客船内と…。その中で丁寧な人物描写が組み込まれ、全員に動機があることを刷り込んで行く…。

ただこの部分が長いと言うか、ゆっくりと流れていくので、現代の作品の様なテンポアップしたシナリオに慣れている方には少しつらそうですね。とは言えこの動機があると言う前ふり無しでは事件推理の醍醐味が無くなりますからね…エジプト観光をお楽しみ下さい(笑)※確か007私を愛したスパイがその前年辺りで流行ってたのかな?

そこから殺人事件が起こり…と言う展開なんですが、ギミックは素晴らしくてこれわかる方は中々いないでしょうね。犯人の目星くらいはついても。ただ…オリエント急行の衝撃には至らない。その事件の動機や犯人の個性…つまり切なさが足りないんですね。アガサ・クリスティーにしても横溝正史にしても、犯人のアイデンティティが大事なんです。その部分がオリエント急行は名作たる由縁。それには流石に及ばない。

ジョン・ギラーミン監督ってキングコングやタワーリング・インフェルノが代表作。心理描写は巧みな部分はアガサ・クリスティーの原作に助けられてます。後半の殺人事件からの描写もやや単調な所がありますからね。密室系が得意なルメットには及ばない。また社会派ならではの切なさの演出のルメットが相手で原作が下となると分が悪い…ですが大スター共演で主役の変わったシリーズ二作目を見事撮りきってますから、素晴らしい職人の仕事だと思います。

ポアロはアルバートフィニーからピーター・ユスチノフに。この後も二作ポアロを演じてますからイメージに合ってましたよね。口の悪さ、明晰な注意力、推理シーンも似合ってます。

容疑者には若きミア・ファロー、オリビア・ハッセー、ジェーン・バーキン。皆さん美人なんだけど儚そうなイメージが近い(笑)ミア・ファローはこの時期かわいそうな感じが最も似合う女優さんなんじゃないかな。オリビア・ハッセーは正に美形ですが…この後何故か布施明と結婚しちゃいます(^^) 更に大富豪の女にロイス・チャイルズが(^^)。この後007ムーンレイカーでボンドガールになりますから、セクシーさ、美女ぶりがまぁ凄い。ここにハリーポッターのマクドゥガル先生のマギー・スミスがいたりして…やはり若い(^^)

そして前作のローレン・バコールを越える大物がベティ・デイビス。ただ…似た感じのおば様でアンジェラ・ランズベリーがいて、やや存在感に欠ける。ランズベリーの方が下品な感じでこっちの役の方がベティには似合いそうなんですよ。こちらを演らなかった理由は何となくわかるけど…。

因みにホームズに対するワトソンのポジションでデヴィット・ニーブンがいて良い味出してますが…やや女優さんたちに男性が押されてますね(笑)

二作目の難しさを跳ね除けきれてはいませんが、十二分に面白い推理劇になっているのは事実。果たしてケネス・ブラナーは二重のプレッシャーの中、どんな作品を撮っているのか…楽しみにはなって来ました。円盤化までゆっくり待つことにします。
滝和也

滝和也