きよぼん

猿の惑星のきよぼんのレビュー・感想・評価

猿の惑星(1968年製作の映画)
5.0


この年末にまた観た。何回観たかわからないくらい観てる作品。
スリル、ショック、サスペンス、哲学、寓話、SF、全てが入ってる。

小学生のとき初めて見た時から、いまこの歳になっても楽しめる。文句なしのベスト。自分にとってのセンスオブワンダー。


猿の惑星
フランクリン・J・シャフナー監督
1968年:アメリカ

@トラウマ映画である

吹き替えファン御用達の「吹き替えの帝王」シリーズで「猿の惑星」が発売された。
http://video.foxjapan.com/library/fukikae_series/saruwaku/
当時のテレビ放送の吹き替えが楽しめるというのがいい。そう、自分が小学生の頃はレンタルはまだ一般的ではなくて、映画は「●●洋画劇場」などでテレビでみるものだった。

今みたいに観たい作品をチョイスできるわけじゃない。毎週放送される作品を文句も言えずみるだけだ。それだけに食わず嫌いにならずに名作に出会えることもあれば、ときにトンデモないものにぶつかることもあった。自分のトラウマになった映画はテレビでみた2本。「た、たたりじゃ~」の「八つ墓村」と、この「猿の惑星」である。

説明不要だと思うが一応あらすじを。宇宙探査船の乗組員たちが冷凍催眠から目が覚めると、宇宙船の時間は西暦では3000年を指していた。惑星に不時着すると、そこには言葉をしゃべる猿たちが支配する世界だった!というもの。

最初の猿の登場がインパクトある。森から追い立てられたテイラー(主人公)の横を馬に乗った何者かが通り抜けていく。そして馬がくるっ!と振り返ると、そこには人間のように馬を操る猿の姿が!そしてプオーオン、プオーオンという不安をかきたてるような音楽がかかるというスリリングなシーン。

自分はこのシーンみたとき、本当に怖くてテレビの前で固まった。。なんと言っても猿のメイクアップがリアル!当時としても最新の技術だったらしいけど、目が動き、しゃべる言葉にあわせて口の形が変わり、表情がある。当時よくみてた日本の特撮だと、この手のものは着ぐるみで顔が動くなんてなかったし、みてるときは怖いにしても、作り物だという安心感があった。「お化け屋敷で幽霊をみてる感覚」だったと思う。それに対して「猿の惑星」はリアル過ぎたので「本物のお化けをみた!」という感じ。一緒に観てた親に「ねえこれ本物じゃないよね?」と不安になって何度もきいたというくらい衝撃を受けた。

この映画に出てくる人間も最悪で、言葉がしゃべれず動物のように森の中にいるという設定。なので寄生を上げながら暴れ回り、猿たちに遊び半分に狩りの標的にされたり、檻の中に閉じ込められている。今だといろんな意味でギリギリ。当時の自分はこれみて引きまくり。もうみてる間はテレビの前で泣きまくりである。だったらもう寝ろ!と親に言われながら、それでも気になって、なんとか頼み込んで最後までみると、あの映画史上に残るバッドエンディング。こんな映画みせられてトラウマにならないわけがない。

この作品を評するとき「優れたSF作品」「鋭い指摘をもった寓話」などと言われるが、自分に言わせれば「怪奇作品」である。怖い、とにかく怖い。そしてその恐怖は人間のふかーい部分にそっとふれてくるような怖さである。

@殴られるよりこわいもの

時は下って01年、この「猿の惑星」のリメイク作(監督のティムバートンは一緒にされるのを嫌ったのか、リ・イマジネーションとかいう言葉使ってるが)「PLANET OF THE APES」が公開された。あらすじは大まかには原典を踏襲。だが作品としての評価は別にして、こっちのほうは怖くない。

動物扱いされた人間が言葉をしゃべることができるようになった、という点もあるが、一つ大きいのは猿がモンスターのごとく強いことだ。

この映画で猿たちは高くジャンプすることができて、壁から壁を飛び回る。そして一撃で相手をノックアウトする怪力を持つ。つまり人間より能力が高いので、支配されていることに妙に納得ができるのだ。こんな力が強い奴らには対抗できないというか、映画としては「インディペンデンス・デイ」のような侵略モノと同じような感覚である。

それに対して元祖「猿の惑星」の猿は人間とたいして変わらない。しかし、自分たちと同じように食器でご飯を食べ、銃を使い、人間を檻に閉じ込める。そこになんとも言えない「気持ち悪さ」がある。

人間が人間らしい生活をしているのはホンの偶然ではないのか?猿と人間が入れ替わることはないのか?終末世界がきたとき、人間は次の何かに支配されるのではないか?

という、「もしも」な問いかけを誰もがしたことがあるだろう。夢想して空想して、でもそんなこと考えても仕方ないや、と思いながら眠りにつく。朝になったら悪夢が現実になっていたら・・・と怖くなる。そのような自分の立ち位置がぐらぐらと崩れる感覚を刺激してくるから「猿の惑星」は怖い。

「PLANET OF THE APES」は暴力を振るわれること、奪われることへの怖さである。目に見えるから理解できる。それに対して「猿の惑星」は悪夢が現実になる恐怖であり、自分の世界がなくなる恐怖だ。殴られることも怖いけど、警察を呼べば済む話。それよりもとんでもないもの、幽霊をみたりするほうが人間って怖いんではなかろうか。

@でもテレビで映画みることもなくなったね

そんな怖くてしょうがない「猿の惑星」であるが、大好きな作品である。テレビ放送からビデオを買って、bru-rayでも観たけど未だに感動は衰えない。そしてSFやら科学やらへの興味の扉に導いてくれた作品でもある。あのときテレビで偶然出会えたのは幸運だったと思う。

今の時代は何でも自分で選べる。それを悪いことだというつもりはない。しかしその逆に偶然何かに出会うことって少なくなってるのかなあ、とも思う。日々の楽しみと言えばテレビだった時代。あの日、あのときこの作品に出会えたことを感謝しながら・・・Amazonでぽちった。でも、別にBOX持ってるんだけどね。
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