新潟の映画野郎らりほう

マトリックスの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

マトリックス(1999年製作の映画)
4.8
【solipsism】


ベルリンの壁崩壊とソヴィエト連邦解体で、東西冷戦は 西側民主/資本〈自由〉主義の勝利に依って一応の終わりを見た。

然し、本当に〈自由〉なのかと…。


東西冷戦下の西側の自由とは、単に社会主義陣営との比較に依る〈相対的自由〉に過ぎず、東側とゆう比較対象を亡失した20世紀末、遂に〈自由〉の正体が露呈する。
合理/オートメーション/大量生産性に依って単純作業度の増大した生き甲斐見出し難き労働に従事し、それに依って獲た報酬を 消費社会の大量広告とゆう洗脳に誘引され、不必要なものを恰も必要であると錯誤し日々消費し、その消費資金捻出の為に また遣り甲斐無き労働に従事する-。
共産主義の夢〈utopia〉の喪失と時を同じに、20世紀末から顕在化する(意識的)テロリズム(無意識的)鬱/引きこもりの発現も決して偶然ではないだろう。

『自分は自由だと思っているものほど奴隷になっているものはない』-ヨハン ヴォルフガング フォン ゲーテ

ウィルスの如し増殖す資本主義を育む為に只生かされる“生き餌”である事識らず尚 自由を謳えるのなら、その洗脳世界は本作「マトリックス」以上か。



〈追記〉
上体を後屈させ迫り来る銃弾を躱すネオ(リーブス)のその瞬きの時を、キャメラは被写体をスローで捉えたまま通常速度で周囲廻転してゆく。
鮮烈な印象を与える上記場面は、その独創性と それを具現化する技術は元より、常人能力凌駕可能な世界観とも合致、及び一目で諒解しうる説得力を有しており、単なる新技術誇示に留まらぬ重層的精良の名場面である。
その瞬間にネオが羽織るコート裾を靡かせる等、演出と不可分化する衣装デザインも素晴らしい。



〈追々記〉
洗脳。偽りの自由と幸福。生きている実感の稀薄。鬱。テロリズムと革命(レボリューションズ)。懐疑主義。独我論-。
冷戦終結後、箍を外した資本主義が掲げる〈自由〉への疑符 - 20世紀末に一定数作られたそれら作品群の中で同年「ファイトクラブ(フィンチャ)」と並び立つ一大傑作。

実世界への疑義がより直截的な「ファイトクラブ」に対し、本作は作品二層にメタファーを加えた三層構造と為っている故に、娯楽性はより高く その懐疑性はより深いか。

世界の本当の姿を見ているのか - その問いは そのまま映画、そして自分自身を真に見ているのか、へと透過してゆく。




《劇場観賞》