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悪魔の手毬唄のsleepyのレビュー・感想・評価

悪魔の手毬唄(1977年製作の映画)
4.8
二十年の愛憎と若山富三郎
77年、144分、石坂浩二、若山富三郎、岸恵子、加藤武他主演。市川崑監督。
横溝=市川=石坂金田一映画第2弾。やはり他の横溝作品、そして同コンビの前作のように、血縁・血族、忌まわしい過去が呼び起こす惨劇が描かれる。詳しいプロットはもちろん書くことはできないが、戦前の、そして今でもおそらく残っている〇〇禁忌が大きな役割を果たす。かつ前作と同様に、男女の、そして親子の情が胸に迫る。子供の頃は良くわからなかったけど、後日涙し、また再見。その余韻が今も。本作は犯人が誰・トリック・探偵の名推理とかが本質ではなく、狭い土地と人心に積み重なる時間の怖さ・悲しさが主眼。多くの場合同様、金田一はいわばストレンジャーであり、みなの心に何かを残し、登場人物のこれまでの人生の行路を変えて去っていく。

金田一(石坂)と磯川(若山)の間に流れる空気(4年ぶりの静かな再会シーン。交わす笑顔、間、言葉少なな会話(「こんばんは」「こんばんは」)が、村井邦彦の音楽と相まってなぜだかじーんとくる。(哀しみのバラード」)。そして別れの駅のシーンはみなが思うように、本作の白眉。2人の声音が、間がじんわり沁みて泣けてくる。金田一の問いに無言で答える駅舎の〇〇。ため息しかない。永年思いを秘める朴訥な若山は賞賛してもしすぎるということはない名演。

岸恵子さん、哀しみと後悔と諦観をにじませる石坂が良いのはもちろんだが、本作は俳優を堪能する映画とも言える。脇役陣の加藤武、岡本信人、辰巳柳太郎、草笛光子、大滝秀治、三木のり平、中村伸郎、山岡久乃、白石加代子、常田富士男、ノンクレジットの原ひさ子・・。若い俳優陣はやや硬いとはいえ好ましい。

市川監督の斬新な構図・カット割り・イメージショット、撮影の長谷川清が切り取る、緑のかけらさえない灰色の空が、寒々とした山間の昏い日差しはもういうことなし。陰鬱な空気の合間に挟まれるオフビートなユーモアと遊び心・実験精神(戸が開いて「うぎゃ~」というお約束には笑ってしまう)。内容とやや異なり、どこか乾いた視線も感じる作家。そして前述の村井邦彦の音楽は「犬神家」の大野雄二にまさるとも劣らない(「病院坂の首くくりの家」も素晴らしかった)。村木忍の美術の完成度。

土着と因習と血縁と欲望。哀しみと才気溢れる石坂=市川金田一はどれも素晴らしく、どれが最高傑作とか言えない。しかし若山の存在はシリーズの中で抜きんでている。日本映画がまだ、ちゃんと「映画」だった頃の映画。
★オリジナルデータ:
1977,東宝, 144min. カラー、オリジナル・アスペクト比(もちろん劇場上映時比のこと)1.37:1スタンダード, Mono、ネガ、ポジ、ポジともに35mm
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