るるびっち

コラテラルのるるびっちのレビュー・感想・評価

コラテラル(2004年製作の映画)
3.7
知人が映画やドラマの見方について興味深いことを述べた。
『主人公とは別立場のキャラの視点が、キッチリ描かれているものが奥深い映画だと・・・』。

本作では
「殺しに付き合わされることに抵抗するタクシー運転手」と
「何としても殺しのミッションを完遂したい殺し屋」双方の立場が過不足なく表現されている。

観客は当然、一般人であるタクシー運転手の側で観ている。
彼は自分の置かれた境遇に満足していない。
野心はあるが一歩踏み出す勇気がなく、夢を見ながらも言い訳ばかりで現状を打破できない我々を代表する人間だ。

一方、殺し屋は犯罪者であるが、プロフェッショナルで機転も利いてカッコいい。
不思議なもので基本的に運転手に共感して「殺しなんて勘弁してくれよ」と思って観ているのに、トム・クルーズ扮する殺し屋の計画が上手く行くように願ってしまう。
ヒッチコックが、殺人者側に感情移入する観客の倒錯的心理を指摘しているが、そういった反動的心理が観客にはあるのかも知れない。
悪人だが、理想的でカッコいい人物には憧憬を持つのかも知れない。
知人が言うように、両者どちらの視点からも楽しめる作品だと思う。

それが後半で一気に運転手側に感情移入する仕掛けになっているのが上手い。
最初の伏線を利かせており、運転手と殺し屋の間で揺れる観客の心理を操る仕掛けとしてたくみだと思う。
作劇上の上手さだけでなく、観客心理を操る上手さに感心する。
運転手は試練を経て、一歩踏み出す勇気を見せる。そこに現状を打破できずに苦しんでいる我々はカタルシスを感じるのだろう。
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