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艦隊を追っての東京キネマのレビュー・感想・評価

艦隊を追って(1936年製作の映画)
4.0
アステア&ロジャースのコンビでは、計10本の内の5本目の作品。監督は前作『トップハット』に続いてマーク・サンドリッチ。アメリカ公開は1936年(昭和11年)2月、『トップハット』公開の5ヶ月後。この頃、RKOではアステア&ロジャース映画は年2本がルーティンだった。

音楽はアーヴィング・バーリン。共同コリオグラファーは何時もの通りハーミズ・パンだが、クレジットでは“Ensembles Staged by Hermes Pan”となっている。恐らく、こういった職種は未だ確定していなかったための表記だったのだろうと想像する。

RKOは、アステアが燕尾服の姿で出続けると観客に飽きられるのではないかと恐れ、今回は水兵役になったということらしいが、しかし、どうしてもセーラー服だとアステアのゴージャスな動きとは合わず、ラストの“Let's Face the Music and Dance”で爆発したということなのだろうが、終わり良ければ全て良し。ダンスの天才には多少タガをはめた方が傑作が生まれるという好例。

M#1:“We Saw The Sea”
水兵役アステアの顔見せナンバー。艦上の合唱曲。“仕方なく海軍に来た、死ぬことは無いけど景色は海だけ・・・”と歌う。やはりアステアの水兵姿はちとダサい。

M#2:“Let Yourself Go”
ジンジャー・ロジャースのビッグバンド・バックの顔見せナンバー。“さあ、みんなも踊りましょう、踊れば悲しみも消えるわよ”と。それを見ていたアステア、“なんだよ、シェリーじゃないか!”と再会。

M#3:“Get Thee Behind Me Satan”
ロジャースの姉役ハリエット・ヒリアードが水兵と出会い、日本風庭園で“自分を抑えなければいけないわ、でももう手遅れよ・・・”と歌うラブ・ソング。これ、実はアービング・バーリングが『トップハット』でジンジャー・ロジャースのために書いた曲。何ともロマンティック。

M#4:“I'd Rather Lead A Band”
艦上で賓客向けに披露するジャズ・ナンバー。アステアは指揮棒振りながら変な腰つきで歌う。“野心は俺にだってあるよ、社長になるくらいだったらバンドの方がまし、僅かな金さえあればリッチさ・・・” その後、アステアのソロ・タップから水兵たちのマス・ダンスへ。コミカルでパワフル。『トップ・ハット』の発展形か。それにしても、アステアがチャらくて笑える。

M#5:“Let Yourself Go”(Solo dance)
オーディションのためのロジャースのソロ・ダンス。センス良いけれどちと踊りが重い。アステア&ロジャース共演の映画10本の内で、ジンジャー・ロジャースがソロで踊る唯一の場面らしい。その後、歌えるんなら雇っても良いよ、ってことで、今度は歌のオーディション。アステアに重曹を飲まされ、しゃっくりしながら歌うロジャースが可愛い。

M#6:“But Where Are You?”
恋人に冷たくあしらわれ、パーティー会場の中庭で歌うハリエット・ヒリアード。“私はここに居るのに、あなたはどこ?”と。ダンス・シーンのカメラ・アングルはメダカ(眼の高さ)だが、こういったエモーショナルな歌の場合は、頭一つ分、俯瞰から撮る。こういったこともアステアの映画でフォーマット化された。

M#7:“I'm Putting All My Eggs in One Basket”
導入はアステアのストライド奏法のピアノ・ソロから。ピアノのチューニング・ハンマーでピッチをぐい〜んと上げてから演奏に入る。こういう小技をやるのがアステアは本当にうまいし、ピアノ演奏もメチャクチャうまい。その後、タイトルのデュエット・ソングからペア・ダンスへ。ファッションが酷すぎて珍しくゲンナリしたけれど、ダンスの方はどんどん茶目っ気が出てきてアバンギャルドになってゆく。アステアはこういう時でもチャレンジングなんだよなあ。。。

M#8:“Let's Face the Music and Dance”
『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年)でもこのシーンが使われてたけれど、映画史に残る史上最高のダンス・ナンバー。重いビーズたっぷりのロジャースの衣装に、アステアは何度も顔を叩かれたという話は有名だが、そんなことは微塵も感じさせない。それに又、このセットが本当に凄い。船上オープニング・パーティーの舞台上に組まれた、海の向こうに摩天楼が見える湾岸に建つアールデコ・スタイルのカジノ。そのシュールなスケール感!1936年当時にこんなトンがったデザインをするなんて、とため息が出る。
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