せーじ

隣る人のせーじのレビュー・感想・評価

隣る人(2011年製作の映画)
4.7
ポレポレ東中野で鑑賞。
旧作で、かつ遅い時間にも関わらず、7~8割くらいの入り。明らかに好事家と思われる人々ばかりなのは当然というべきか。

…なんとなくそうなるんじゃないかなと思ってはいたが、やはり観た後は何もいえなくなってしまった。
ただし、単純に内容的に重いからというよりは、そのままの現実をそのまま観客が見知るような映像手法で作られていた作品だったからだとは思うが。

どういうことかというと、この作品にはナレーションや字幕、劇伴音楽といった演出や脚色が無いどころか"魅せるてらい"みたいなものが全く感じられないのだ。にも関わらず、誰が、どう思い、どう行動し、どうなったかという一本のドキュメンタリーとして、きちんと成立している。つまり撮影の仕方と映像の編集だけで映画作品として作りあげているという、物凄くシンプルかつ難しい手法をとっているのだ。そこにまず驚いてしまったし、そういう手法で作品をつくることに(もっと言えば、ソフト化させずにこういう形で公開し続けようとしている姿勢そのものに)深い真摯さと誠実さを感じた。

では、どうしてそういう手法をとってつくられたのかというと、それは言うまでもなく「人を育てる」ことや「家族として暮らす」ということの難しさと難しいからこその奇跡を、プライベートな領域にまで踏み込んでとらえていたからだろう。 マリコさんや園長をはじめとする園の職員さんたちはどこまでも献身的で、自分から見たら女神や菩薩のような存在だと感じてしまう。その裏にどれほどの努力と犠牲とおひとりおひとりの人間性の強さがあるのかは計り知れないし、そういう人々が集まっている場所があるということ自体が奇跡だろう。頭が下がる思いだ。
そしてもちろん、そういう人々に見守られてきたむっちゃんたち子供たちの存在そのものもまた、奇跡的だとも思う。作品の中盤、最初はちょっと粗暴だったむっちゃんが、ある時ノートに「大好き、大好き、大好き…」と書いたことがあった…ということや、後半むっちゃんが、実のお母さんと関わろうと頑張ろうとした…ということも、その結果はどうあれ、そこには彼女自身の成長や周囲の人々の存在があったという要素を抜きにしては語れまい。

人間の、人間性の強さと豊かさを信じきった、傑作ドキュメンタリー作品だと思います。
観ることができる場所や期間は限られていますが、興味のある方はぜひ。
せーじ

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