【詳述は、『支那の夜 後篇』欄で】奢らず、権威付けせず、あくまで軽くさりげなく、真の映画の確かさと才を著してくれる。

戦地で結成された軍楽隊をモチーフにしたプロパガンダ映画。
情報局が募集した脚本のコンペで優秀賞をとったものを、マキノ正博（マキノ雅弘）が監督したものとのことなんだけど、ググると松竹の脚本部のひと。「東京物語」をはじめとした小津映画を支えた大物脚本家でなんか出来レースっぽい。
・経験者と未経験者で夫婦も同然のバディを組ませるというコメディ要素。
・中国人のむずかる赤ん坊をクラリネットで寝かしつけるプロット。
・中国人に向けた中国語の啓蒙セリフあり（日本語字幕が薄くて潰れてしまっていてまったく読めない）
このあたりが見どころか。
とはいえテンポは悪く、キャラも薄っぺらい。いうほど楽曲は多くないなど、もうちょっとどうにかならなかったのかというのが正直な感想。
終盤までプロパガンダ臭がしないは特筆に値するけど、ラストには中国人に向けたプロパガンダぶっ込んでくるので、その点についてもなんか微妙。
なんでamazonchoiceに選ばれてるのか意味がわからないのだけど、のちに軍楽隊を扱って名作となる「血と砂」の先行作としての価値があることは議論を俟たない。
見たのはVHS版で画質、音質ともに最悪だった。最悪すぎて逆に身を乗り出してしまうという不思議な映画体験だった。
いま現在（2020年12月の山口淑子特集）、国立映画アーカイブで上映している「野戦音楽隊」も、同じフィルムなのかどうか気になるところ。

題のとおり、寄せ集めのしたっぱ軍人が楽隊を組まされて頑張る話。ロケ地は中国なんだろうか。松竹製作だけど満映も絡んでるのかな。画のスケールやエキストラの使い方など観ても結構気合いの入った国策映画。経験者と未経験者が“夫婦”になり楽器を練習するシーンはホンワカしていて実に楽しいし、夫・上原謙と妻・佐野“駄々っ子”周二の薄いボーイズラブはかなり良い線いっている。三井弘次は出てるだけで楽しい。上官・佐分利信の「強いだけが軍人じゃない」というサブリンらしからぬ台詞など「おっ」と思うが、やっぱり終盤のストーリーも放棄した無理筋なプロパガンダで色々と台無しに。李香蘭のキャスティングにしても、おそらく中国人に向けても日本の侵略を正当化する目的で作られたのだろう。満映のことや戦前・戦中の内務省による検閲について今後調べてみたい。