けんたろう

惑星ソラリスのけんたろうのネタバレレビュー・内容・結末

惑星ソラリス(1972年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

日本が兎に角やかましいおはなし。


科学的な正しさか、其れとも道徳的な正しさか。人間ではない組織を有するが、然し人間の心をも有した其の存在は、本当に人間でないと云へようか。終はらぬ議論。果たして、人間とは何んぞや。揺らぐ定義。抑〻、定義とは何んぞや。──嗚呼、此れは、中途半端に知性を有した、科学の奴隷たる我々への警告かしら。
たゞ思ふに、其れは、即ちハリーは紛れもなく人間である。誰れかが云うてゐた。人は、他者から認識せらるゝことでしか存在できないと。然れば、彼女は、何んの疑念も擡ぐること無く、存在してゐたと云へよう。主人公クリスが其れを最後まで認めつゞけたからである。

然うしてクリスが迎ふる、冷徹な科学的思考からの逸脱。即ち、科学から人間への回帰である。宇宙を渇望せず、未知を探求せず、フロンテイアを慾望せず、たゞひたすら地上に満足をす。幸福とは、屹度満足の裡に在り。人間たらん。
処で、彼れを人間ならしめたのは、彼れ自身が認めつゞけたハリーの存在である。即ち彼れは、──成るほどハリーの存在を通しはするが──詮ずるところ、己れ自身の力で科学と訣別を果たしたのである。

さて、総べてを終へて、此の包装されし思ひ出から、故郷たる元の現実へと帰るクリス。たゞ、もう嘗ての彼れではない。辛き傷と向き合ひ、又た考へ、然うして人の心を取り戻したのである。其んな彼れの父との再会は、何んと心の温まる場面であらうか。美しきラスト。素晴らしき結末。果たして此れ以上はあるまい。
然しながら流るゝ不穏な音楽。はてな、一体どういふわけであらう。心温まるラストぢやないのか、此れは。ん? 霧? ま、まさか!
──衝撃である。身体の顫へが止まらない。思へば、彼れらの会話の裡に伏線は在つた。何んの気も止めずに居たが、まさか此処に繋がつてくるとは。お、面白い。タルちやんアンタ、此んなサプライズもお撮りになるんだね。まあ然し……嫌なサプライズである。


スペイス・サイエンスフイクシヨンに於いては、『2001年宇宙の旅』と双璧を成すと名高き本作。
思考する海の壮観な図や、寒色と暖色の使ひ分け、更にはシインとシインの移り変はりを利用した静寂の強調が非常に印象に残る。二種の音楽と、様々な色調とに依る巧みで麗しき表現は、優しくも圧巻であつた。