あなぐらむ

電送人間のあなぐらむのレビュー・感想・評価

電送人間(1960年製作の映画)
4.3
戦後のどさくさに紛れて暴利をむさぼる人間の欲に対して、同じ戦争の犠牲者とも言うべき個人の怨念が科学の力で復讐する様を、円谷英二の独創的な特技を活かして描くモダンスリラー。
鶴田浩二の記者役が新鮮、平田昭彦、白川由美とスターも揃い、電送人間の中丸忠雄がはまり役。地味だが要所に挟まれる特技は円谷の本懐。
特撮の白眉は人体に走るノイズの戦慄と機関車爆破シーン、クライマックスの浅間山の噴火! ディザスター特撮としても楽しめる。高度経済成長が戦後と地続きである事を描く福田純演出は、スピーディでサスペンスフル。

「怪獣」という強烈なキャラクターにこだわらず、「視覚効果」こそ特撮の本懐だとでも言わんばかりの地道な作業。全身にノイズをまといつつ現れる電送人間には、今も戦慄させられる。
流石の東宝、いちいちセットもでかく、一番迫力あるのは機関車炎上シーン。スチールを見るとかなり大きなミニチュアなんだが、照明と相まって最初本物だと思った。あと、浅間山の噴煙を窓越しに合成で入れておくとか、芸が細かいんだ。カタストロフへの準備をちゃんと進めておくというか。

全体のイメージソースは「ハエ男の恐怖」だと思うが、そこに戦後秘話を絡めたサスペンスに仕上げたのは見事だと思う。関沢新一のアイデアをシャープな活劇にした福田純は、むしろこういった仕事こそ腕を発揮する人だ。

公開が1960年ぐらいなので、その頃には「軍国バー」なんてキツい洒落が映画で使えるぐらいに日本の欧米化が急速に進んでいたんだなとは思う。あの時分の映画はどこの会社も気前よく、「マッドメン」のアメリカみたいな世界なんだよね。