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スウィート ヒアアフターのRのレビュー・感想・評価

スウィート ヒアアフター(1997年製作の映画)
4.5
10年以上ぶりに見てみました。何と寒々しい映画でしょうか、こんな映画ありますか。ありますわ、ヨーロッパには、たくさん。でもアトムエゴヤンには独特の良さがある、どんだけ酷評されてる映画でも、独特の支持したさがある。本作は比較的高く評価されてるけど、とりあえず見るときは実話を基にしたお話である、ということは知っておいた方がよいでしょう。いつでもどこでも誰でも利用可能なインターネットのある現代の感覚とはあまりにもかけ離れてるので。カナダのとある田舎町で、子供たちを乗せたスクールバスが転落事故を起こし、ほとんどの子どもが死亡、嘆きに沈む親たちのところに、弁護士のミッチェルはやってくる。手抜き整備のバスや手抜き工事のガードレールに事故の原因がある。集団訴訟に持ち込めば、多額の賠償金を勝ち取ることができます、と彼は死んだ子どもの親を訪問し、説得してまわる。そんな彼には、実は、別の形で、失ってしまった娘がいるのだった……一方、バスの事故を生き延びた一番年上の少女ニコールは、ミュージシャンになることを夢見て、父と音楽活動をしていたが、事故のため下半身付随になってしまう。車椅子での生活が始まり、やがて事件の証言をすることになる。だが彼女にはある秘密が隠されていた……弁護士と少女を軸に、町の人々の果てることなき喪失感と嘆きが、少しずつ詳らかになっていくプロセスが、じっくりじわじわと心に沁む。荒涼とした雪景色の重々しい空気のなか、過去・現在・未来を複雑に行きつ戻りつしながらゆっくりと進んでいくストーリー、徐々にピースがはまっていくジグソーパズルのように、人々の秘密と嘘が、冷たく暴かれる語り口が大変スリリングで、作品全体のミステリアスな魅力の源泉となっている。つかめそうでつかめない、もやもやしたグレーゾーンとして存在する人間のミステリーが、映画が終わっても、なおじっとり心に残る。スッキリした終わり方を好む人にはあまりお勧めできない一方で、見ようによっては、結構論理的に単純な筋道あるやん、て思う人もいる作りになってもいるので、ボク的には逆に多くの人に勧めたいな、という思いであります。アンビバレンス。そして、音楽がとても良いんですねー、ボクがエゴヤンの映画をとても好きな理由は、サントラがどれも素晴らしいこと。人々の癒えぬ悲しみに吹きつける優しい寒風のように、本作の音楽は心に染み渡る。映画全体の雰囲気や音楽が、どことなくポーランドのテレビドラマ『デカローグ』を髣髴させるので、そっちファンの人にも是非見ていただきたい。最後に、人間の業の深さとその厳たる因果を見事に体現した俳優さんたちBravo👏。個人的に、不倫してるおっさんとニコールの父親とバスドライバーの絶妙な演技がすごく好きだった。きっと多くの人が絶賛するであろうイアンホルムとサラポリーの演技は、あまり心に迫るものが感じられなかった。なんかちょっと演技くささが出過ぎなような……まぁでもそれはオーバーオールの面白さのなかでは取るに足らぬ些事です。この映画を見ると、やっぱ人間のさまざまな問題って、生と死の問題を先に解決しないことには、どうにもならないな、と強く思わされた。果てしなく広がるグレーに注ぐひかり。あれは一体何を意味していたのか。それを悶々と考えながら今日もいつものワークアウトをしていきたいと思います。
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